高橋コレクション 神楽坂タイトルにある「Slow Glass」とは、SF作家Bob Shawの小説『Other Days, Other Eyes』にでてくる「光の速度を遅らせるガラス」という架空の素材をインスピレーションとしています。
ガラスを通って出てくるのは過去の光であり、覗き込めばそこに過去の光景が見える。だから物語は、たとえば美しい田園の風景を蓄えたガラスが、汚れた都会の住宅の窓に嵌められたり、犯罪の現場にあった窓ガラスが、証拠として法廷に持ち込まれたり、といったふうに展開してゆくのだが、実際にこのような機能は、現代の映像メディアにおいて完璧に実現されてしまっているのではないか。物語はやがて、忘却されるべき過去が、しつこい記憶として現在に侵入してくることの不幸を描き始める。これもすでに現代の僕たちにはおなじみの経験だ。いまや記憶は人間の心から離れた場所に着々と蓄えられ、その膨大な量がかえって僕たち自身を不安にさせているのだから。僕たちの時代は、あらゆる過去の光によって隅々まで照らし出されている。それは全面"Slow Glass"張りの建築の内部空間のようなものだ。身を寄せるべき陰はなく、すべては冷酷なほど明るい。
雨粒が描く水玉模様に映りこむ無数のイメージと、ガラスによる光の屈折を通してぼんやりと見える不思議な光景をとらえたカラープリント作品による本展を是非ご高覧くださいませ。
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