古賀絵里子 「浅草善哉」

エモン・フォトギャラリー

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「浅草善哉」は、東京下町に暮らす老夫婦を追ったドキュメンタリーである。タイトルから、のんびりとした下町の風情と感傷的なものを連想させるが、この写真展は消化しやすい上品な芸術を好む人には向いていない。ここにやって来た80枚の写真には、生のうねりが随所に刻まれていて思わぬところで胸をえぐられる。
この作品を撮った作者は古賀絵里子という。1980年福岡に生まれ、上智大学フランス文学科を卒業した後、迷うことなく写真家を目指してフリーランスの道を選択したという。高校生のころから写真家になることにあこがれ、大学在学中は独学で写真を学びながら町に出ては日々写真を撮った。22才の時に、浅草三社祭でその老夫婦に出会い、以来6年に渡って二人の生活そのものを追い続けてきた。
2003年5月に始まったこの浅草の記録は、2004年、ガーディアン・ガーディアン主催のフォト・ドキュメンタリー「NIPPON」に選ばれ、3年後の2007年、写真雑誌「風の旅人」6月号で取り上げられている。そして今年4月、撮影に要した6年間の集大成として作品「浅草善哉」は完結し、この夏いよいよ広尾で展覧会を開催する運びとなったのである。古賀の写真は、荒くざらついている。光をコントロールする技術はお世辞にも洗練されているとは言い難い。しかし、それでいてこれほど忘れ難い写真に巡り会うことはめずらしい。この作品が心を揺さぶるのは、事実をありのままに撮ったからである。年を重ね、老いを受け入れる二人の生活。それは、まるで色褪せていく虹のスペクトルのように、つややかな朱色の灯りと荒れ果ててものさびしい青灰色の光が交差する。古賀はシャッターチャンスに抑制を利かせ、そのありのままの老夫婦の肖像を切り取った。
この写真展は、物質的な豊かさと引き換えに人間性を失いつつある現代社会を、180度反対の立場から切り込んだ作品と読むこともできるだろう。経済発展や社会の進歩を優先したことの代償として、格差や個人主義が生じて置き去りにされていく人は少なくない。「浅草善哉」に記録された老夫婦に関して言えば、ただひたすら写真家を目指し、輝く目を持った一人の若い女性によって、決して二人が置き去りにされることはなかったという事である。 「写真以上の言葉を私は持ちません。誰もが観ることを通じて、見えない何かを感じて頂けたら幸せに思います。」古賀絵里子がこの展覧会に向けて言ったこの言葉は実に印象的である。

2008年5月 エモンインク ディレクター 小松整司

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スケジュール

2008年07月15日 ~ 2008年08月09日

アーティスト

古賀絵里子

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