「ephemera」は中村早がここ数年、継続して撮影している男性ヌードの最新作です。これまで中村は「bedroom」、「bed scene」、「The Nude of Man」とタイトルを少しずつ変化させながら、柔らかなモノクロームの男性ヌードのシリーズを発表してきました。本展では、夕暮れどきの窓から漏れる薄明の中、ベッドやソファーに横たわる男たちの裸体が撮影されています。刻々と変化する不安定な光の濃淡によって裸体は闇の中に消えゆき、全身像は失われてゆきます。しかし肌の質感、体毛の流れ、骨のふくらみといった身体の細部を、シーツのしわやソファーの皮のゆがみとともに写し出す中村の写真は、裸体を曖昧な輪郭をもったものとして浮かび上がらせています。黒と白、昼と夜、人と物、男と女といった幾重ものあわいで、中村の写し出す男たちの裸体はかげろう(=ephemera)のようにたゆたっているのです。