「project N 70 宮本穂曇」展

東京オペラシティ アートギャラリー

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[画像: 宮本穂曇《good place #3》 油彩, キャンバス 112.0×145.5cm 2017 photo: OKANO Kei]

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初めて宮本穂曇の絵を前に立つと、たぶん奇妙な当惑を覚えることでしょう。画面を縦横無尽に埋め尽くす素早い無数のタッチはじつに奔放自在で、みる者を圧倒し、まるでその視線を画面の表層に絡めとってしまうかのようです。色遣いこそ控え目とはいえ、きわめて表現主義的なこのタッチの狂騒が、描かれているイメージを瞬時に判別することを難しくしています。
また、茶褐色を基調とした暖色系の画面は、セピア色に退色した古い写真や絵葉書のように茫洋として、イメージとみる者との間に不思議な距離感を生み出しています。こうして、画中人物は玩具の人形やフィギュアのような趣きを呈し、実在する風景もミニチュアやジオラマのような佇まいにみえてくることでしょう。
こうした錯誤は、どこか褪めたような色調の効果もさることながら、作品における遠近法(パースペクティヴ)の意図的なずれによるところが大きいはずです。風景画はふつう、遠景、中景、近景を適切に描き分けることで、それらしい奥行きのある空間を実現するのですが、宮本の作品ではそうした空間調和は顧みられず、画面全体を均一に覆う自由奔放なタッチが、遠景、中景、近景の関係性を曖昧で不明朗なものにしています。
実際、宮本の作品ではとくに中景が画面全体のなかで強い優位性を示しているのがわかります。《Mt. T》のように、中景のモティーフが画面の大部分を占める作品はもちろん、本来は近景、中景、遠景が存在するはずの情景を描いた作品でも、中景が前面に迫り出すかのように描かれているのです。その結果、予定調和的な遠近感を欠いた絵画空間が生まれ、実在の人物はまるでミニチュアの人形を連想させ、みる者の視線は画面の表層をあてどなくさまようことになります。
宮本は、カラープリンターで自ら印刷した写真を利用して制作を行なっています。写真専用紙ではなく、あえて普通紙をもちい、しかもインクが減った状態のプリンターで印刷します。どこか色褪せたような画面の色調は、こうした制作プロセスと深く関係するものでしょう。
また、対象を視点や時間を少しずらして撮影した写真を合成するなどして、表現するイメージや作品の構図を決定しています。そうした写真の加工や操作が、西洋絵画の伝統的な遠近法の規範を逸脱する、ユニークな絵画空間の創造に大きな役割を果たしているはずです。
作家は、そのステートメントのなかで、「関係ないもの同士の関係性、その間にある余白の出来事、無意識に失われ、作られていく他との距離、不可視の距離」への関心を挙げています。いうまでもなく、その「距離」と呼ぶものには、物理的な空間的距離とともに、心理的な時間的距離も含まれるでしょう。
遠近法の古典的研究で知られるエルヴィン・パノフスキーは、古代から近代までの遠近法を例に挙げ、遠近法が各時代における人間の精神活動の象徴であること、遠近法的な空間把握が近代の精神構造が求めた制度にすぎないことを論証しています。
「制作とは現象をそのままなぞることではなく、ずらし、平均化していく中で新たな体験を作り出す試み」と述べる宮本穂曇にとって、遠近法的な空間把握を超克することは、絵画表現に新鮮な視覚体験を取り戻そうとする試みであると同時に、21世紀という時代に求められるべき新たな人間精神を創造しようとする企図ともいえるのではないでしょうか。

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スケジュール

2018年01月13日 ~ 2018年03月25日

アーティスト

宮本穂曇

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