糸川ゆりえ 「揺らぐからだ」

児玉画廊|白金

poster for 糸川ゆりえ 「揺らぐからだ」

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糸川の作品は、その水のような透明感に溢れる色彩がまず目を奪います。透明色、銀色、パール、ラメなどを積極的に使い、意図的に反射や透過といった光の効果を画面に取り入れています。不透明な重さから解放されたような透明感は、原因の多くをその画材選択に依拠していますが、筆触もそれに呼応するように軽やかで、ごく荒い点描のような、刷毛目を透かし重ねるような彩色法が特徴的に見られます。それが筆運びのリズム感や強さを感じさせて、淡さや透明感に固執する故の薄弱な絵画に陥るようなことはありません。また描く内容も、泳いだり浮遊する人物像、水際の景色や、星の輝き、それらが夢幻のごとく描かれています。さらに、画面上にそれらを領分する明瞭な輪郭線はほぼ存在せず、背景とモチーフの境目は淡く溶け合い、混ざり合って画面全体の浮遊感を増幅させています。色彩の透明感や画面全体の印象としての浮遊感といった視覚的な特徴点に加え、特定のモチーフを繰り返し描くことも糸川の作品をそれと印象付ける要因となっています。星座、家、ボート、そして一人ないしは二人の人物像を題材とし続けてきました。それらは糸川の内面にある根源的イメージの象徴として受け止められるでしょうし、仮にそうでなくとも何らかの寓意性を否応なく感じさせ、鑑賞者の図像学的関心を刺激します。おそらくは糸川自身も明確な自覚があるわけではないでしょう。しかしながら、描かずにはいられない必然性だけは明らかであるから作家は絵を描くのです。自身の制作について記した文章の中で、糸川の絵画の象徴的事物である水を例えに、絵を描くことを「暗い水の中に潜っていくような怖さ」とも「地獄」であるとも評しています。色と形を求めて、息苦しくもがく最中に、突如光を得る瞬間があるのです。「それは例えば、髪の毛のたった一本や、小さな星を描いた瞬間にも現れたりする。そのとき、私は呼吸を取り戻したみたいに気持ちよくなって(中略)、生きているのだと実感する。だから、何回も地獄に落ちても、描くことをやめられない。」描かずにはいられない、描かざるを得ないものであるからこそ、糸川の作品は観る者を魅了するのです。今回の個展においては、特に人物像に関してはある意図を持って描いています。多くの画家が題材として挑んできたヌード、その糸川なりの表現が示されています。これまで、糸川が裸の人物を描いた作品はありません。そもそも、糸川の描く人物描写には特定のキャラクター性が不在であることの方が多く、表情はおろか、時には造形的に曖昧すぎてそれが人物かどうかすら戸惑われるような、漠然とした像として描かれてきました。そして、これまでの人物のほとんどはロングドレス様の体の大半を覆う衣服を纏った女性像です。今回、裸の人物を描くということは、糸川が意識的にか無意識的にか保持し続けてきた人物像に対する匿名性、アイコニックさ、存在の曖昧さから初めて離れようと試みている、ということかもしれません。少なくとも、今回、衣服が覆い隠してきた人としての造形、肢体のディテールを描くことによって、これまで一様に混ざり合ってきた図と地、モチーフと背景の関係性を幾分かは明らかにすることになります。これまでも、糸川自身の投影としての側面は作家自らも言及してきたことではありますが、今回の個展ではより強くその兆候に傾いている、と言えます。自らが描きながら、そこに現れる彼女は何者かと問い、それを通じて自らとも向き合う、そういう私的で、静謐な思考の時間を感じさせます。「そもそも彼女は誰なのか?いつもと違うのは、洋服を着ていないこと。毛の柔らかな感じや、体温や、目線の揺れる様子を描きたいと思ったから服は脱いだ。」今回の個展に向けて作家がそう綴る様に、人物を、翻っては自らと向き合うためには、その何たるかを丸裸にし、文字通り衣服など脱がねばならなかったのです。個展名を「揺らぐからだ」としていますが、揺らぐのは、暗い水底に沈みながら絵を描く作家自身であり、そして水鏡としての絵画の中に現れる「彼女」の「からだ」です。「からだ」は、心や魂の器:殻(から)の意です。心を内に、世界を外に、それらを分かつ境界線としての殻である「からだ」の何たるかに改めて目を向けた時、必然的に内側にある自らの心とも外の世界とも対峙することになるのです。これが、揺れずにはおられましょうか。今回の個展終盤は、時を同じくして描かれた大作の群馬青年ビエンナーレ2019(群馬県立近代美術館、2/2~3/24)への出展会期とも重なり、併せてご覧頂ければと存じます。

メディア

スケジュール

2019年01月12日 ~ 2019年02月16日

オープニングパーティー 2019年01月12日18:00 から 20:00 まで

アーティスト

糸川ゆりえ

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