公開日:2007年6月18日

「八木良太展」 第1弾展「sideA:timer」

京都在住のアーティスト、八木良太(1980年生)の初個展が、高円寺の「無人島プロダクション」で始まった。<br /> 「静かに」「手を触れず」に鑑賞する美術館とは違い、直接手を触れ、音を聴き、目で確かめる展覧会だ。

八木は、身近にある素材を用いて、観る人の聴覚や視覚をくすぐる作品を制作している若手アーティスト。
たとえば、氷で出来たレコードの作品「「VINYL」は、レコードの溝が刻まれたシリコン型に精製水を流し込んで製氷したもの。まず、氷から音が聴こえるということに驚く。音質も良く、「別れの曲」など、誰しも聞き覚えのあるクラシックの名曲の旋律に思わず聴き入ってしまう。しかしそれも束の間で、表面の薄い溝が蒸発するのと同時に、音も空気中に蒸発し、音楽が、ザー、ザーと針が氷をなぞる音に変わっていく。ときに、氷が不安定で音が飛んだりする不確実性や、溶けていく氷が放つ音は、有限性のはかなさをも想起させる。
展覧会では、実際に氷のレコードの作品の演奏を聴くこともできる(毎日1:00pm、3:00pm、5:00pm、7:00pmに演奏開始)。

また、壁に掛けられて回転しているレコードの作品、「TTW」。こちらは本物のレコードだが、溝に釘や爪楊子などをそっと置き、耳を近づけてみると、自分だけに聴こえる位の音量で、音が聴こえてくる。何の音が聴こえてくるのかは、ぜひ自身で試してみていただきたい。

一方、「LE PETIT PRINCE」は、目でたのしむ作品。ガラス板に、「星の王子様」のフランス語版のテクストの、読点、「i」や「j」などの文字に含まれる点の部分だけがシルクスクリーンで抜き出されている。明るい昼間は文字全体が認識できるが、夜になると点の部分だけが、まるで星空のように浮かび上がる。

このように、八木の作品は、文字や音といった日常世界のコードに、ちょっと違った角度からアプローチを促すことで、現実からファンタジーを引き起こす。
八木は、今年の3月に「Aランチ」展に出展したことがきっかけで、今回の個展開催となった。
また、無人島プロダクションは、ギャラリースタッフと音楽ジャーナリストとしてそれぞれ10年以上のキャリアを持つ、明るく、活力に溢れた二人の女性によって立ち上げられた。”表現ジャンルを問わず、既存の枠にとらわれずに、才能あふれる「人」を多様な形でプロデュース”していこうという無人島プロダクションの今後の活動も楽しみだ。

Rei Kagami

Rei Kagami

Full time art lover. Regular gallery goer and art geek. On-demand guided art tour &amp; art market report. アートラバー/アートオタク。オンデマンド・アートガイド&amp;アートマーケットレポートもやっています。