アーティスト・イン・レジデンス 韓国編

レジデンスを通してみた韓国の文化とアート

In Main Article 2 特集記事 by yumisong 2009-11-27

今秋、私はアーティストとして韓国のレジデンス施設で滞在制作&発表をしてきました!
今回は東京のアート情報ではなく、番外編として韓国情報をお届けします。

韓国での滞在先の風景

その前にまず、「アーティスト・イン・レジデンス」(略してAIR)という言葉自体を知らない方も多いと思います。レジデンスは住居のことなので、言葉を直訳すると「芸術家が住んでるよー」みたいなことなのですが、つまり特定の団体などがアーティストを特定の土地に招いて滞在制作(ときには成果発表展覧会)をしてもらうプログラムのことです。

アーティストを召集する団体は様々な種類があり、ナショナルミュージアムがレジデンス施設を保有し運営している場合もあれば、オルタナティブスペースが運営している場合もあります。運営者・団体は、国や市町村、個人まで多岐にわたります。ということは、召集されるアーティストの活動目的はもちろんのこと、待遇や滞在期間も本当に様々です。

渡航費を始め、滞在にかかる生活費全般、制作費までの費用を提供してくれ、制作スタジオも最新の設備が揃い、頻繁にディレクターやキュレーターなどの美術関係者が訪れる施設もあれば、アーティストが自ら費用を負担して滞在する施設、ギャラリースペースはあるけど制作スタジオのないプログラム、田舎や都市、滞在期間が2年であったり1週間であったりなど、本当に様々な形態のレジデンスプログラムが欧米を始め世界中にあります。もちろん日本でもアーティスト・イン・レジデンスは行われています。

アーティストが、その土地にとどまって滞在制作すれば、その土地の文化レベルが上がると考える人や、異文化を受け入れることで文化の活性化が図れると考える人、多くの人々に作品を見てもらいたい、そのレジデンス・プログラムに参加したというネームバリューを手に入れてさらにステップアップしたいアーティストなど、目的も様々です。

ひとまずレジデンス・プログラムとはどういうものなのかについて書きましたが、私が今回滞在させてもらったのは韓国アンサン市ウォンゴク洞という場所のCOMMUNITY SPACE LITMUSのプログラム。
この団体はアーティスト・イニシアチブといって、(キュレーター1人を除き)ディレクターや事務の人々は全員がアーティストでプログラムを運営しています。オフィスとレジデンス施設はあるけれど、制作スタジオのない16名が運営する小さなプログラムです。

LITMUSのオフィス

LITMUSのプログラムの特徴は、韓国のアーティストたちがアジア各国へ旅立ち、現地のアーティストを見つけ、韓国へ連れて帰り制作をするというところ。レジデンス・プログラムは、一般的に公募で参加者を募るので、少し珍しいことです。召集の対象になった国は、去年はヨーロッパで、今年はアジア。今回、日本・中国・ネパール・タイ・インドネシア・トルコのアーティストが韓国で滞在制作をし、10月と11月の2回に分けて成果発表展覧会を開催しました。アーティストには、渡航費・滞在費・1ヶ月に付き50万ウォンの生活費が支給されました。

50万ウォンというと少ない気もしますが、家賃や光熱費などの滞在費は出ていたので、使うのは食費と交通費ぐらい。韓国は、物価が安いので特にケチケチしなくても使い切ることはなかったし、制作費の大半もそれでまかなうことができました。今回のプログラムは、最大で3ヶ月、最小で1ヶ月の滞在が必須要件でしたが、私は日本で用事があったので3週間の滞在。今回のプログラム中で一番短い滞在で、中国とインドネシアからの参加アーティストとは会えずに帰ってきました。

ChangDong Studio

近年、韓国ではレジデンス・プログラムが盛んで、ソウルだけでも20箇所も行われているそうです。私は韓国の中でも2箇所の大きなレジデンス施設の見学に行ってきました。一つ目はThe National Museum of Contemporary Art,Koreaが運営している施設「ChangDong Studio」。きれいな外観で、展示スペースもスタジオも広く、半分は韓国のアーティスト、半分は海外のアーティストが使用していました。スタッフの方々の英語が堪能で、にこやかでした。国内のアーティストは自宅からスタジオに通い、海外からのアーティストはスタジオにベッドを置いてそこで生活をしています。世界中から集まった滞在アーティストの作品はクオリティも高く、世界中のレジデンスを周って生活しているアーティストもいました。

住居の設備はシャワー、トイレ、キッチンが共同。きれいな設備でしたが湯船がなかったのとシャワーに間仕切りがなく並んでいたのは、何ヶ月も滞在するには少し辛いかなと思いました。私は独りでシャワーを浴びたい派です。(と言っても、私がこのレジデンスに応募しても落ちそうですが。)オープンスタジオとして数日間に渡る展覧会を開くのですが、大きなカタログが作られていました。他にも、持ち運びしやすい小さなカタログとCD-ROMも制作していました。たった数日の展覧会のために! と、驚きです。

Gyeonggi Creation Center

もう一つ見学に向かった先は、ソウルではなく、私が滞在していたアンサン市のはずれにある「Gyeonggi Creation Center」。出島のような地形のエリアで、とっても田舎ですが、施設はすごーく大きいです。オープンスタジオのために、無料送迎バスが用意されたり、大掛かりなダンス・ショーや花火や演奏、3日間通して世界中のキュレーターなどを囲んでシンポジウムが開催されたり。日本からは横浜美術館の天野氏、トーキョーワンダーサイトの今村氏、秋吉台国際芸術村の原田氏が出席していました。韓国って不景気じゃなかったっけ?と思わず疑ってしまうほどバブリーな催しで、こちらの住居施設もスタジオもChangDong Studioと同じくらいの大きさで、きれいなものでした。

私が滞在していた施設は、あまりきれいな設備じゃなかったのでうらやましかったのですが、これまで滞在したアーティストからの情報だと、最初からこのように居心地のいい設備だったわけじゃなく、だんだん冷暖房がついたり、制作の道具が揃っていったりと運営しながら整えていったようです。

滞在していて思ったことは、韓国は「とりあえずやってしまえ!」という風潮が日本より強いことです。きっと日本だと「冷暖房もなくて、住めるはずないでしょ。」と考えて、それが揃うまではスタートしなさそうですが、韓国はいろいろなことが前のめり気味で、しかも締め切りギリギリまでは動かずにのんびりしていました。でも、動き出した時のパワーは凄いです。

LITMUSのレジデンス風景

どちらがいいのかは、わかりませんが、最初は少し戸惑いました。今回初めてアーティスト・イン・レジデンスに参加した私は、「きっと滞在中は制作、制作の毎日ね!」と思っていましたが、実際はその国のやり方に慣れる。異なる国の人たちが大勢いて、それぞれが慣れていくのを一緒に体験していくなど、生活に関わることに神経や時間を随分使いました。観光で滞在するのとは違って、本当に小さな思い違いで制作がうまく行かなかったりするので、その小さな違いにイライラしたり、また、面白いと思ったりしました。

今まで韓国には何度か訪れたことがあったので、「慣れるも何も、知ってるよー。」と思っていましたが、やっぱり制作をするという目的で訪れると、小さなやり方の違いが影響してきます。大げさに言ってしまうと、初めて訪れた国のようでした。私は日本で生まれ育っていますが、国籍が韓国なので、韓国の文化は他の日本の人たちより見聞きしているし、自分の中に韓国の文化はインクルードされているような気がしていましたが、今回の滞在で「異文化だー。」と感じました。それはとても面白い体験でした。(だからと言って、私は「日本人だー。」とも思いませんでしたが。)

韓国に限らず、レジデンス・プログラムはまたチャレンジしていきたいと思います!
私のレジデンスでの制作の様子はこちらで詳しく報告しています→http://art.yumisong.net/?cid=51328

yumisong

yumisong. ふにゃこふにゃお。現代芸術家、ディレクター、ライター。 自分が育った地域へ影響を返すパフォーマンス《うまれっぱなし!》から活動を開始し、2004年頃からは表現形式をインスタレーションへと変えていく。 インスタレーションとしては、誰にでもどこにでも起こる抽象的な物語として父と自身の記憶を交差させたインスタレーション《It Can’t Happen Here》(2013,ユミソン展,中京大学アートギャラリーC・スクエア,愛知県)や、人々の記憶のズレを追った街中を使ったバスツアー《哲学者の部屋》(2011,中之条ビエンナーレ,群馬県)、思い出をきっかけに物質から立ち現れる「存在」を扱ったお茶会《かみさまをつくる》(2012,信楽アクト,滋賀県)などがある。 企画としては、英国領北アイルランドにて《When The Wind Blows 風が吹くとき》展の共同キュレータ、福島県福島市にて《土湯アラフドアートアニュアル2013》《アラフドアートアニュアル2014》の総合ディレクタ、東海道の宿場町を中心とした《富士の山ビエンナーレ2014》キュレータ、宮城県栗駒市に位置する《風の沢ミュージアム》のディレクタ等を務める。 → http://yumisong.net ≫ 他の記事

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