公開日:2011年6月6日

ミューぽんイベントレポート「対話型鑑賞 in ワタリウム美術館」

ミューぽん初の企画! ハートビート展を舞台に対話型鑑賞イベントを開催しました

ミューぽんは、TokyoArtBeatによる都内の美術館の割引券を集めたiPhoneアプリ。いつでも展覧会の情報をチェックすることができ、 好きなときに美術館に出かけて、割引券を利用することができます。今回は、ミューぽんユーザーの方を対象に、展覧会や展示作品の楽しみ方を一緒に体験できる「対話型鑑賞 in ワタリウム美術館」を企画しました。

ミューぽんが企画するイベントは今回が初めて。会場となったのは、アーティストとともに自由で斬新な試みに挑戦するワタリウム美術館。4/17まで開催中の『ハートビート展 時代にキスして』は、作品の制作過程を撮影した映像や手記を、作品とともに展示するなど、アーティストのすぐそばで、現代アートを見守り続けて来たワタリウム美術館ならではの展示です。
「人と、人をとりまく世界への関心からアートが生まれる。その領域を超え、時代と関わりながら、アートは 社会の鼓動となる。」そんなフレーズを添えられた第1章のフロアが、イベントの舞台となりました。

「対話型鑑賞」とは、「みる」「かんがえる」「はなす」「きく」という4つを基本にしながら、美術の知識だけに頼らず、みる人同士の対話を通して、作品の理解を深めていくための鑑賞方法です。
ナビゲイターにお迎えしたのは、対話型鑑賞の研究・実践をされている平野智紀さん(@tomokihirano)。

参加者の皆さんには、応募申し込みのときに、バリー・マッギー《無題》についての平野さんからの問いかけ に、事前にTwitterで自由にツイートをしてもらいました。まずは、この作品を前に、参加者から集まったツイートを紹介し、平野さんから対話型鑑賞についてご紹介いただきました。

「みる」直感を大切にしながら、まず作品をじっくりみる
「かんがえる」なぜ自分がそう思ったのかについて内省する
「はなす」自らの中に湧き上がった思いや疑問を言葉にして他の鑑賞者に伝える
「きく」他の鑑賞者の声にきちんと耳を傾ける

今回ご参加するのは20名のミューぽんユーザー。それぞれ人によって違う感じ方を、言葉にしていきます。

1作品目は、ファブリス・イベールの《ありえない気象学》。まずはじっくり作品を「みる」。そして「かんがえる」。

ファブリス・イベール《ありえない気象学》,2009

「本来ありえない天気だが、宇宙から見ればこういうこともありえるのではないか? 」
「いろいろな天気が描かれているが、全面が青なのでポジティブなイメージ。」
「人の心も晴れていたり曇りだったり、いろいろな感情がある。それをあらわしているように思えた。」
(参加者の皆さんからのコメント)

自分にない視点が、作品について新たな発見をもたらしてくれる。事前知識がないからこそ、自由な発想ができる。平野さんから少しずつ解説が添えられ、対話が広がっていきます。最初は遠慮がちだった参加者の皆さんでしたが、少しずつ一体感が生まれてきました。

2作品目は、ヨーゼフ・ボイスの《コンティニュイティ(連続性)》。黒板にチョークで波形がひかれています。あるストーリーが秘められた作品ですが、その解説に入る前に、まずは直感的に感じたことを参加者の皆さんは表現していきます。

ヨーゼフ・ボイス《コンティニュイティ(連続性)》,1984

「作品とは関係ないかもしれないけど……黒いガラス面に自分がうつるのが気になった。見ている私も含めてアートなのかなと思った。」
「描かれたプロセスがおもしろい、絵を描くこと自体が作品だったのでは。」
(参加者の皆さんからのコメント)

平野さんは、参加者からの感想を聞きながら少しずつ作品のストーリーを明かしていきます。心電図のようにも見えるこの作品は、実は音楽のスコア。1978年7月7日、ヨーゼフ・ボイスとナム・ジュン・パイクによって、デュッセルドルフで行われたジョージ・マチューナスの追悼コンサートのスコアを再現した作品です。

「音楽をあらわす白いラインの周囲の黒い部分は、コンサートに聴き入る観客のよう。」
「20年以上前に黒板にチョークで描かれている。消えてしまいそうなはかなさが、音楽にも通じる。」
(参加者の皆さんからのコメント)

参加者の皆さんは、作品のストーリーを聞いたことで、コンサートの情景が思い描かれたり、ストーリーと素材の特徴とが連想として結びついていくなど、お互いの意見を聞きながら、鑑賞体験が次第に深いものとなっていきました。

最後にワタリウム美術館のキュレーター、和多利浩一さんにご登場いただき、今回取り上げた2作品についての解説をしていただきました。

1作品目の作家、ファブリス・イベールは、アートにインタラクティブ性を持ち込んだ作家のひとりです。鑑賞者のアイディアを聞きながら作品自体をどんどん変えていったり、四角いサッカーボールをつくって、鑑賞者にルールを考えさせる作品など、いつも問いかけのある作品を発表しています。和多利さんからは、過去の展覧会やイベールが来日した時のエピソードなどを交えてお話いただきました。鑑賞者を巻き込んだ活動を展開しているイベールは、まさに対話型鑑賞の題材としてふさわしい作家でした。

2作品目の作家、ヨーゼフ・ボイスについては、政治にも直接的にかかわっていった人物で、現代の社会環境にまで視野を広げてお話いただきました。ドイツの環境政党「緑の党」の設立者のひとりであるというエピソードなど、作家の人となりまで含めた解説は、対話型鑑賞で聞くことで、より厚み・広がりをもって感じられました。

「今回取り上げた2人の作家は、アートを『アートの世界』として閉じてしまうのではなく、社会との関わりを常に問いかけてきた。それはワタリウム美術館の姿勢でもある。」「わかろうとするより、感じようとすることが大切。描かれた場が、すぐ横にあるような感覚で作品を見て欲しい。」
和多利さんの言葉のひとつひとつが印象的でした。

アートと社会との関わりは、同時に自分自身との関わりでもあります。作品、そして同じ場に集まった人たちとの対話を通して、何かを感じていただいたり、イベントでの体験を今後の鑑賞にも活かしていただけたらと思います。今回ご紹介した「対話型鑑賞」は、作品の楽しみ方のひとつ。この記事を読んでいただいた皆様も、ぜひお友達と試してみてくださいね!

「今日この日が、ここにしかない、特別な一日となってほしい。」ワタリウム美術館、ナビゲイターの平野さん、そしてTokyoArtBeat、3者の思いを形にすることができたように思います。
ミューぽんで足を運ぶひとつひとつの展覧会での体験も、一度きりの、特別で、素敵な体験であることを願っています。

<対話型鑑賞をやってみよう>
(1) What’s going on in this picture?/絵の中には何が描かれていますか?
当たり前に思うことも口に出してみましょう。あなたにとっての当たり前が他人にとっては新鮮かもしれません。

(2) What do you see that makes you say that?/何をみてそう思ったの?
作品の視覚的要素をきちんと押さえます。意見が作品に立脚していないと、議論が空中戦になってしまいます。

(3) What more can we find?/ほかには何が描かれていますか?
ひとつの視覚的要素をみおわったら、次の要素に移ります。要素をじっくりみることで、鑑賞を深めていきます。

chiquichika

chiquichika

ブラジル生まれのスペイン育ち、帰国後から東京在住のアートファン。2010年より5年間、Tokyo Art Beatのスタッフとして勤務。現在は、2歳になる娘とどんぐり拾いやアートめぐりを楽しんでいる。