東京都現代美術館で名和晃平による個展「名和晃平 — シンセシス」が開催されています。
タイトルである「シンセシス(synthesis)」とは合成や統合を意味し、彼の独特な世界観を表皮や境界の「界面の彫刻」を介し体験できる展覧会です。展示室は12のカテゴリー・シリーズに分かれ、約100点の作品を展示、その大半が新作となっています。
透明の球体によって表面を覆い尽くされた鹿の剥製。
「BEADS」をはじめ、PixCellシリーズでは、インターネットのオークションで見つけた剥製をモチーフにしています。本物の剥製が実際に送られてくると、モニター上で見るPixelとなったイメージにはない生々しい手触りや臭いがあり、本物とイメージのあいだにはギャップがあります。彼は、物体の表面を球体で覆うことで、今度はそのものの存在を「光の殼」で置き換え、「PixCell(映像の細胞)」という新たなビジョンを提示しています。
PixCell(ピクセル)とは、Pixel(画素)+Cell(細胞、粒、器)を意味する彼の造語なのです。
私たちはモノの表面を輪郭としてとらえ、それが何なのか、視覚的に判断しています。今回の展覧会では、名和晃平の卓越した表現力で、物質と私たちをつなぐ「表皮」をリアルに、そして不可思議に体感できる空間となっています。作品の大半が新作ということもあり、見応えは十分です。作品から発せられるオーラからはどことなくひんやりとしたものが感じられる気がしました。普段、美術館に足を運ばれることが少ない方も、暑い夏に向けていつもとは違ったひんやり感を求め、現代美術に触れてみてはいかがでしょうか。
[執筆者]
takimotoeri:東京出身。武蔵野美術大学卒業後、ディスプレイデザイン会社を経て、渡英。Kingston Universityの大学院でキュレーションを学び、卒業後帰国。デザインに関する展覧会に興味があります。