天才ハイスクール!!!! 展覧会「Genbutsu Over Dose」フォトレポート

激賞と無関心のあいだにある熱量

poster for Tensai High School!!!! “Genbutsu Over Dose”

天才ハイスクール!!!! 「Genbutsu Over Dose」

武蔵野、多摩エリアにある
素人の乱12号店にて
このイベントは終了しました。 - (2015-04-17 - 2015-04-23)

In フォトレポート レビュー by Taichi Hanafusa 2015-04-22

Chim↑Pomリーダーの卯城竜太が講師を務めてきた美學校のプログラム「天才ハイスクール!!!!」が解散を迎え、解散制作展を高円寺の「キタコレビル」、素人の乱12号店「ナオナカムラ」、その他野外などで展示している。

展示を見たものは激賞、それ以外は無関心。
今回の天才ハイスクール!!!!の展示に対する観客の態度は両極に分かれている。「ハイスクール」の生徒はまだ子どもと捉えられる。子どもに対しては、「よくがんばったね」と無条件に褒めるか、「子どもがやったことだから」とスルーするかのどちらかしかない。つまり、天才ハイスクール!!!!の生徒の作品は、まだまともに見られていないようだ。

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しかし、ついに天才ハイスクール!!!!が閉校を迎える。まずは、生徒のみんなに卒業おめでとう、そして、卯城竜太先生(Chim↑Pom)にはお疲れ様でしたと言おう。天才ハイスクール!!!!はすでに5期を数えており、その生徒のほとんどは実際にはすでに卒業しているが、閉校にともなっていよいよ彼らも大人の仲間入りだ。◯◯大学出身と同じように、卒業しても「天才ハイスクール!!!!出身」というレッテルはついてまわるかも知れないが、どちらにせよ一人の大人としての成果が求められるようになる。

さて、今回の展示「Genbutsu Over Dose」は天才ハイスクール!!!!の生徒=子どもとして展示をする卒業展なのだが、ここでは過大評価して大人として個別の作家を見ていこう。グループ展のため作家一人あたり1、2点しか展示されていない。そこから作家性を読み取ることは困難だが、将来の個展に向けての可能性と期待を列挙していく。

■キュンチョメ
今回の展示のフロアプランはキュンチョメが担当したそうだ。確かに、これまでの天才ハイスクール!!!!の展示と違い、かなり見やすくなった。一言で言えばいい意味でも悪い意味でも「アートっぽく」なった。
さて、岡本太郎賞を受賞して、一足早く天才ハイスクール!!!!から「卒業」していたキュンチョメは、頭2つくらい抜け出た作品を見せてくれる。キタコレビルに入ってすぐにあるのが《花道》。誰かにどこかで手向けられた献花もいつか腐ってしまう。喪のドライフラワーだ。

《花道》

もう一つが階段を上がった「死の部屋」に展示されている映像作品《生存のリズム》。樹海で拾った首吊り自殺のために使われたロープを使って縄跳びをするという作品。縄跳びをしている人々には、そのロープの由来を伝えなかったらしい。この作品を見て、Chim↑Pomのエリイが言った「これは国家の象徴だ」という言葉が忘れられない。無数の死に囲まれてぴょんぴょんと跳ねさせられている私たちが、まっとうなアナーキストでいられるはずもない。
《生存のリズム》

■やまだしげき
キュンチョメの《花道》の中に展示された《微塵切りにしたへソノオ》。例えば、この作品がギャラリーに展示してあると、「これは本物だろうか?」と疑ってしまうが、天才ハイスクール!!!!の展示だと、間違いなく本物である、という前提で見てしまうのが面白い。
《微塵切りにしたへソノオ》

やまだしげきが宮沢賢治の『農民芸術概論綱要』にインスピレーションを受けて活動しているチームワレラの作品が、キタコレビルから歩いて数分の場所にあるナオナカムラで展示されている《世界のはざま》。ウズラの卵を孵化させる作品だ。搬入の際に揺らしてしまったため、全て死んでしまったのではないかと皆が不安に思っていたが、なんと3つの卵からウズラの子どもが生まれた。チームワレラは岐阜県内で実際に活動中。Google Earthで見ることのできる農場は、まさにアースワークだ。
6月19日よりナオナカムラで「チームワレラ☆農民芸術一揆!〜PROTOTYPE〜」展が開催予定だ。

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■タタラ・タラ
形式的思考障害という日本でも数名しかいない病気にかかっているというタタラ・タラが、なぜかPentagonに果たし状を送る作品《果たし状-to Pentagon》。陰謀論に毒されてしまったのだろうが、なぜその対象がPentagonなのかが分からない。しかもそのキャプションに書かれたテキストは形式的思考障害のためか、何度も同じフレーズが繰り返され、読んでいるうちにこちらも陰謀論者になってしまいそう。

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何気なく置いてある包帯の下を見ると《自傷癖のある友人の初リストカット記念包帯》というタイトル。アートワークとして展示するなら、タイトルをつけないか、つけたとしてもここまでストレートにはしないだろう。ところが、何のためらいもなく、そのままのタイトルをつけているところに天才ハイスクール!!!!特有の軽さが感じられる。

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タタラ・タラのおばあさんが展示初日に亡くなった。それも作品として展示してしまう。何とも軽い。この軽さをどう展開していくのか。

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■毒山凡太朗
福島県いわき市の風俗街にリカちゃん人形と戯れにいく《源氏名LInCCAi-chan》。「シンプルにヤバイものを作る」という天才ハイスクール!!!!のテーゼを真剣に考えすぎて、逆に難しくなってしまった作品の典型例だろう。私は君の欲望が見たい。大画面で展示されていた映像よりも、ただ、いわきの風俗街を車で回るだけの小さなディスプレイで展示されていた映像のほうが欲望が感じられた。欲望の空回り。ストレートすぎる欲望は空回りするしかない。

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こちらは全く異なるテイストの作品《1/150》。海岸に打ち上げられた150匹のイルカの中の一匹。プロジェクションの正面には、腐敗したイルカの肉が吊るされている。ただただ美しいものを求める毒山の、倫理に反する行動に好感を持った。

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■SORA
風俗店で働いていたときにつけていたという《顧客情報》。SORAは売れっ子だったに違いない。顧客情報を細かく書いておき、リピーターを満足させていたことが読み取れる。個人情報満載。制作にかかる年月と労力が凝縮している作品。

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すでに「まんげ鏡」という通称で呼ばれていた《ひのあたらない場所》。見たままです。本物です。《顧客情報》も《ひのあたらない場所》も軽々とフェミニズムを越えていく。この軽快さが天才ハイスクール!!!!の醍醐味だ。真剣に考える必要はない。軽々と飛び越えろ!!!
しかし、彼らはどこに着地するのだろうか。何度も万華鏡を覗く悪趣味な観客の一人として、彼女の性器に癒やされながら思い出したのは、卯城氏が「全員展」(2010年、MAGIC ROOM??)で賞を与えた大井健司「20歳の誕生日に母親の局部を見ようとする」だった。SORAの局部と母親の局部が万華鏡の反射に重なって見えた。

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■REDICAcrew
グラフィティの裏から響くバリバリという音は、ウーファーと振動スピーカーがガラスを揺らすものだった。日本でも今後大きな潮流を作るだろうストリート・アートの系譜の中でどこに位置づけられるのか、不勉強な私には分からないが、無理やり振動させられる鼓動の居心地の悪さがどう展開していくのかを追って行きたい。

《EARTHBOUND 0》

■新井真
毒山凡太郎のイルカとキュンチョメの縄跳びの間に展示されている。今回の展示で、天才ハイスクール!!!!の一つの切り口として動物というテーマが浮上してきた。彼らの動物的反射神経についていける者だけが彼らの作品を鑑賞できる。逆に言えば、そうでないものは排除される。その責任をいかに引き受けるか、今後彼らに求められる。

《殺処分を免れた動物の毛》

作家本人が処方されている薬を砂時計にした《49457991》。意味深な数字は病院のIDだろうか。薬の量を見ればまさに「オーバードーズ」。これを正常になるために飲んでいる私たちの現実を突きつける仕草は、天才ハイスクール!!!!の教育の賜物だ。

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■ケムシのごとし
自らがスターになるためのプロモーションビデオと捉えればよいのだろうか。《Star System》では、微妙にずれた音程の歌声と音ゲーが重ねられる。

《Star System》

《楽しいことも 悲しいことも なにも覚えていない》は、天才ハイスクール!!!!生徒の涌井智仁とケムシのごとしがただただ酔っ払って絡むだけの映像作品。涌井がケムシのごとしの顔に唾を吐きかけたり、手におしっこをかけたりとやりたい放題。到底、作品とは呼べないこの映像こそが、私が天才ハイスクール!!!!に求めていたものだった。しかし、今後はこの作品の勢いをフレーミングしなければならない。今のところそのフレームはまだ片鱗も現れていない。

《楽しいことも 悲しいことも なにも覚えていない》

■安原杏子 a.k.a 青椒肉絲
「とりあえず一番大きな作品が作りたかった」あまりに素朴な言葉に応援したくなってしまう。考えてみれば、キャラクターを描く作家が天才ハイスクール!!!!には少ない。早速、5月にナオナカムラで個展とのことなので、そこで彼女のコンセプトが見えてくるだろう。一時期、美大ではキャラクター絵画が大量に現れたが、最近はほとんど壊滅状態になっている。この状況に新たな一手を打ってくれることを期待する。

《はぐれ天使》

■宮嵜浩
雛人形のクビを取って、タバコの吸い殻などと共に展示する《Blank(余白)》。何やら文学的な雰囲気が漂っている。小さいころ里帰りしたおばあちゃんの家にある日本人形が怖くて眠れなかった。そんなステレオタイプの郷愁が、品悪く展示されている。逃れようのない俗っぽさが、純文学だった。

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■志水佑
今にも底が抜けそうな屋上に洗練されたインスタレーションを見せる《Gag Machine》。今回の展示の中で最も「アートっぽい」作品群だ。美術っぽいタッチで描かれたタイル画と、モチーフの安直さの落差に落ち込むことをぎりぎりで回避する手つきに、才能を感じる。ホワイトキューブで展示したときに何を壊してくれるのかと期待が膨らむ作家だ。

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■涌井智仁
美術手帖2015年5月号の中で卯城に天才と言わしめた涌井智仁。《Godspeed you!!!》では、バイクのエンジンがふかし続けられている。展示室に入った鑑賞者の何人かが気持ち悪くなったと言っていたが、全体の空気を悪くしていたのは彼の作品。残念ながら過去の個展「蒼い優しさにだかれて」は未見なのだが、ステートメントからは確かな知性が感じられる。天才ハイスクール!!!!の軽さではなく、彼自身が抱えているであろう必要以上に重いコンセプトを持った作品を見たい。どうせ知性が隠せないのなら、嫌というほど知性的に振る舞うべきなのだ。

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■堅田好太郎
卯城が天才ハイスクール!!!!を始めて「真っ先にすごいと思った」(美術手帖2015年5月号)と語る堅田好太郎。ひたすらアーティストのおっぱいについて語るニコニコ動画の映像「巨乳で見る美術史in美学校」を見たときから、私も追いかけている。今回は《へソノオノミコト》という映像作品を出品。しかし、あまりにも音が小さすぎて聞き取れなかった。それも彼の仕掛けだろう(初見の人には分かりにくいが)。映像にはただ気配だけがある。その気配はタイトルから神話をモチーフにしているのだろうということは分かった。聞き取れない声が折口信夫『死者の書』の大津皇子の声に思えたと言ったら褒め過ぎだろうか。

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■石井陽平
作家本人とナオナカムラディレクターの中村奈央が、二人で並んで何かの映像を見ながら涙を流す様子を映した《あなたの未来へ届きますように》。最後に涙と鼻水だらだらの中村が照れ笑いしながら、目の前に置いてある撮影用iPhoneの電源を切る様子が、それまで単にナイーブなだけに見えていた作品をひっくり返してくれる。

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■西村健太
展示風景を撮影し、色彩を反転させた映像作品《Japanese Artificial Flower》。プラスティックの木の緑色が反転してピンクに見える。桜もまた人工物である。天才ハイスクール!!!!出身で唯一すでにギャラリー所属(無人島プロダクション)というだけあって、コンセプト、技術、インストールと全てが揃っている。無人島プロダクションの藤城里香のもとでどのように変化し、何を見せてくれるのか、期待が膨らむアーティストだ。

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最後にもう一度。卒業おめでとう。

Taichi Hanafusa

Taichi Hanafusa. 美術批評、キュレーター。1983年岡山県生まれ、慶応義塾大学総合政策学部卒業、東京大学大学院(文化資源学)修了。牛窓・亜細亜藝術交流祭・総合ディレクター、S-HOUSEミュージアム・アートディレクター。その他、108回の連続展示企画「失敗工房」、ネット番組「hanapusaTV」、飯盛希との批評家ユニット「東京不道徳批評」など、従来の美術批評家の枠にとどまらない多様な活動を展開。個人ウェブサイト:hanapusa.com ≫ 他の記事

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