大勢の人が行き交い、夜も日が沈まない街、新宿。見渡す限り、というより、景色をぐるりと見渡せないほど、視界を覆うビル、ビル、ビル。コンクリートジャングルとはよく言ったものである。
今回訪れたのは、「魔法の美術館 – 光と影のイリュージョン」。現在、東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館で開催されており、17点のメディアアート作品が展示されている。美術館は新宿駅西口から徒歩5分ほど、損保ジャパン日本興亜本社ビルの42階に位置している。
作品を鑑賞するだけでなく、見て・触れて・楽しめるという来場者体験型の展示になっており、館内は沢山の家族連れで賑わっていた。写真撮影が可能で、お気に入りの作品と一緒に撮影できるのも嬉しい。
「光と影のイリュージョン」というテーマに基づいて、画面に投射された映像に干渉したり、カメラで撮影された自分が時間操作されて映し出されたりするなど、さまざまな体験の仕方で楽しめるインタラクティブな作品が並んでいた。
展示の中心となっている「メディアアート」とは、コンピュータなどの電子機器といった技術的発明を用いて作られた作品のことを指す場合が多いように思う。「メディアアート」と聞くとテクノロジーだとか人工的といった言葉を連想する人も少なくないはずだ。
かつてより私たちは光という自然のものに対して、西洋では教会のステンドグラス、東洋では仏の後光などに見られるように、どこか畏敬の念を抱いていた。だが現代では科学技術の発達とともに、光はわれわれのより身近なものとなり、能動的なアプローチが可能になってきた。今回の展示はそれを強く感じさせられた。
ところで、光と影、というと不意に思い出されるものがあった。それは東京都庁の展望室から見た新宿の夜景である。
東京都庁展望室。南北二つの展望室があり、北側であれば夜は23時まで開いている。その高さは地上202メートルで、ここならば本当に新宿を(ひいては東京を)”見渡す”ことができる。昼はもちろん、夜はまた一段と綺麗な景色を見ることができる。
夜景というのはまるで別世界のようで、昼間、道を歩いているだけでは決して見ることのできない景色がそこにある。沢山のビル、行き交う車、広告塔などの光源が夜の闇に負けることなく輝いて、眼下に広がる建造物の海に浮かぶ光はとても美しい。
街の景色は、計画都市のような場合もあるが、最初から設計されているわけではない。地上に張り巡らされた道路、その間にできた建造物の一つ一つが街の景色全体を形作っている。
車のライトはビルのガラス面に反射して流れていき、ビルの窓から漏れる明かりは地上に映し出された星空のようで、それら全てが新宿という街の夜を彩る。
魔法の美術館では、展示作品のために機械で制御されていた光。それが新宿では街という規模に拡大して行われている。作品のように全てがある意図のもとに動いているわけではないが、人や車、建造物など様々な要素がまとまって、「新宿」という一つの大きな光の景色を作っている。新宿は夜になると、巨大な光のメディアアートへと姿を変える街なのだ。
[TABインターン] 坂井大生: 都内の大学に在籍してはいるものの通学しているかはかなり怪しく、巷では出家も噂されている。その溢れる文才により、文化界各方面から引く手数多のコラム二ストであったらいいのに。階段は右足から登るスタイル。