3200枚のパネルに広がる未知の世界。ジェリー・グレッツィンガー インタビュー

生涯唯一の作品《Jerry’s Map》の制作を続けるアーティスト、ジェリー・グレッツィンガー。彼が地図に込める愛に触れてみました。

poster for Aichi Triennale 2016

「あいちトリエンナーレ2016」

関東:その他エリアにある
愛知県美術館にて
このイベントは終了しました。 - (2016-08-11 - 2016-10-23)

In インタビュー by TABインターン 2016-09-18

3度目の開催となるあいちトリエンナーレ。「虹のキャラヴァンサライ」をテーマに持つ今回、ポスター等で目にした人も多いであろうカラフルな地図は、私たちをトリエンナーレという「旅」に誘ってくれます。この《Jerry’s Map》の作者は74歳のジェリー・グレッツィンガー。「地図」を通して現実ではない「未知なる世界」へ思いを馳せ、想像と創造を続けるアーティストにその制作背景について伺いました。

作者のジェリー・グレッツィンガー

《Jerry’s Map》はA4よりひと回り小さい8×10インチの紙パネルに描かれる地図を縦横につなげた壮大な作品。 のべ30年以上制作が続けられるこの作品は、日々更新され、多層的になると同時に、拡張を続ける。パネルの総数は約3200枚以上もあるという。今回のあいちトリエンナーレでは、そのうちの1350枚が展示されている。目をこらすと絵の具、マーカー、色鉛筆、お菓子の箱など、色彩豊かに一枚一枚手が込められている。大きな都市、街と街をつなぐ道路、いくつものパネルにまたがる湖、突然表れる空白の空間など、実際にあるようでない、不思議な世界に観者は引き込まれる。トランプのカードに記された指示に従うなど、制作プロセスはとても複雑で、偶然性を生かしたゲーム的な性格を持つ。

コラージュや筆跡が見てとれる水辺と陸地が入り組んでいる部分



ーーこの作品の制作にあたるきっかけについて教えてください。
地図とは未知の世界。5、6歳の幼い頃、「今、ここでない場所」を想像できる地図を眺めることが大好きだった。その頃、ナショナル・ジオグラフィックが世界中の美しい地図を出版していて、大河に流れる支流が何本あるか、数えたりしていたよ。地図の制作を自分で始めたのは単なる偶然と遊びで、今もどんどん大きくなっているのは不思議だ(笑)
最初期の地図はロンドンとかワシントンとか、実際にある街の要素を融合したものだった。特に大きく影響を受けたのは幼い頃、ラジオから流れてきたイギリス、ジョージ6世の葬式の音。馬の足音、カートの車輪の音を聞くだけで、その景色を完全に頭の中に再現できたんだ。その景色を紙の上に起こしたことが制作を始めるきっかけになっていると思うよ。

ーーでは、地図を描くとき、基本的に「その場」に実際にいるつもりで描いているのですか?
ときどきはね、でもいつもではないかな。なぜなら僕の地図はたまにとても抽象的で、本当の場所を表していないことも多いからね。でも、都市の道路や建物、というよりは池、川、山など自然の景観を描くとき、その場にいるような気持ちになるよ。

「ヴォイド」を探してみよう

ーー「ヴォイド」(地図にランダムに表れる白い部分)の始まりはなんだったのですか?
あれは6年前、8年前、いやもっと前だったかな!僕の友達が僕の地図を元にした物語を書きたいって言ったんだ。ただ、面白いフィクションには争いが必要だろう?その頃地図の上には争いのようなものはなかった。あいにく僕は「悪い」人じゃないから(笑)ならば、地図の一部分を切り抜いて、そこに住んでいた人たちを殺さずに、別次元に追放するのはどうだろう?と思いついたんだ。それと対峙するように住人には「壁」を構築させることで、ヴォイドと壁の間の争いが生まれる。ヴォイドが広がるか壁が構築されるかはカードの指示によって決まるんだ。これで彼も納得した。

制作の指示を出すカード

ーーカードによって制作を進めることになった経緯を教えてください。
カードの使用を始めたのはたぶん2003年、息子が屋根裏で昔描いた地図の束を見つけてきて、本格的にもう一度取り組もうと思ったとき。そのとき制作途中のパネルは800枚あったんだ。そのときは一枚一枚順番に取り組んでいたんだけど、僕はマメな人じゃないから(笑)。800枚もある中から、僕の意図抜きに、取り組む順番をランダムに決めたくなった。トランプのカードはそれにうってつけだったんだよ。例えば、数字の8のカードを引いたら、上から8枚目のパネルに取り組む。そしてその上にあった7枚はトランプをシャッフルするように束の下に入れるんだ。次第に「新しい都市」「新しいヴォイド」といったようにカードにはだんだん指示を足していった。指示もどんどん複雑になっていって、今のスタイルが成り立っている。

ーー毎日一枚のカードの指示をもとに制作しているのですか?
基本的に一日一枚ずつ。でも「43のコラージュを足せ」とか、一日じゃやりきれないものもある。あと僕は趣味でやっている庭での作業もあるから、取り組む時間は天気に左右されることも多くてね。でも逆に一枚のカードの指示の内容がすぐ終わるときは二枚、三枚取り組むこともある。

3200枚ものパネルへの細かい描き込み。作業量の多さに気が遠くなりそう

ーーガイドブックのインタビュー(*)にあった、「地図の抽象的な一面」とはどういったことでしょうか?
とても複雑だから、これを説明するのはいつも難しい!カードの指示で、「新しいパネル」ときたら、今取り組んでいるパネルにどこに新しいパネルをつなげるか決めさせる。一番近い端が陸なのか水なのか?とかね。一番はじめの段階のパネルはビールの包装箱やパリの地下鉄のチケット、レシートなど、文字や写真や形だけが組み合わさったパッチワークのようなもので、それは全く地図らしくない。ここを「抽象的」と呼んでいて、僕の好きな部分なんだ。そこから時間をかけて、はじめにパネルに描いた点から地図を展開する。そしてコラージュや描き込みを続けて、だんだん本当の地図のようになっていくんだ。これもカードが決めることだから、一枚のパネルにも「抽象的」な部分と「具体的」な部分が生まれる。

*「1980年代になると、より抽象的に描くようになりました。そして、今もっとも関心があるのが、こうした地図の抽象的な一面です。」(『あいちトリエンナーレ2016 公式ガイドブック』ぴあMOOK 2016年 p.27より抜粋)

ーージェリーさんといえば地図、というイメージが大きいですが、地図以外で制作したいものはありますか?
あるよ。でもそれは僕のアート作品とは思っていない。今もいくつかプロジェクトをやっていて、そのひとつが「Yard Bomb ヤード・ボム」。時間のあるときに編み物をしていて、その編んだもので樹木を包むんだ。あとは音楽や庭作り。日本庭園が好きで、いつか庭の木に切り込みを入れて盆栽のようにしようかな!でもこれらはアートに見えても、アートではない。「Yard Bomb ヤード・ボム」の作品をスキャンして地図の背景に取り込むことはあるけどね。

ーー日本に来て地図にどんな変化が起きそうですか?
旅をすると何かしら影響は受ける。今回の旅では特に石、苔、草、田んぼなど自然の風景の写真をたくさん撮った。あと妻が店のレシートなどをたくさん取っていてね、次に見るときは日本語が作品にコラージュされていると思うよ!

地図の上に乗ることができる お気に入りのパネルを示してくれるジェリーさん

目をきらきらさせながら作品についてたっぷり語ってくれたジェリーさん。ユーモアと好奇心、そしてその優しい人柄に触れ、彼の地図をみてわくわくする気持ちの理由を知ったようでした。壮大なスケールの作品は愛知芸術文化センター10階エントランスホールに展示してあります。透明パネル越しに作品の上に乗ることもできるので、ぜひじっくりご覧になってください。

あいちトリエンナーレ2016の見どころをまとめたフォトレポート前編 名古屋編後編 岡崎・豊橋編はこちらから。

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[ミューぽんインターン] 杉浦 花奈子: 愛知県出身。美術館を巡るのが趣味で、古今東西の美術を一通りかじってみるものの、落ち着く先がまだ見えない美術史専攻の大学生。日本の美術界の未来を探すべく、上野の森で奮闘中。千代田線が好き。

TABインターン

TABインターン. 学生からキャリアのある人まで、TABの理念に触発されて多くの人達が参加しています。3名からなるチームを4ヶ月毎に結成、TABの中核といえる膨大なアート情報を相手に日々奮闘中! 業務の傍ら、「課外活動」として各々のプロジェクトにも取り組んでいます。そのほんの一部を、TABlogでも発信していきます。 ≫ 他の記事

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