今年で21回目となる「文化庁メディア芸術祭」の受賞作品が決定した。今回は過去最多となる世界98の国と地域から4192作品が寄せられた。
アート部門の大賞受賞作品は、チュニジア生まれ、フランス在住のアーティスト、Haythem Zakaria(ヘイサム・ザカリア)の映像インスタレーション『Interstices / Opus I – Opus II』。砂漠の風景を捉えた静的な「Opus I」と、海の風景を捉えた動的な「Opus II」、それぞれの映像にデジタル処理を行うことで、オリジナルの風景を超越する「メタ・ランドスケープ」を引き出すインスタレーションプロジェクト。
同部門の審査委員であるアーティストの藤本由紀夫は、「『風景』とは、物理的に存在するものではなく『読みとるべきもの』であることをこの作品は教えてくれる」と評価した。
エンターテインメント部門で大賞を受賞したのは、『ICO』(2001年)や『ワンダと巨像』(2005年)といったPlayStation 2を代表するゲームを手がけ、国内外に熱心なファンを持つ上田文人率いる開発チームのゲーム作品『人喰いの大鷲トリコ』。プレイヤーが主人公の少年を操作し、巨大な生き物、大鷲のトリコとコミュニケーションを取りながら、忘れ去られた巨大遺跡のさまざまな仕掛けを解き明かしていくというアドベンチャーゲームである。
「この作品が目指しているのは、架空の動物に対する心の絆という、これまでのゲームの文法とはまったく異なるゲーム体験」と審査委員の遠藤雅伸(ゲームクリエイター/東京工芸大学教授)はコメントした。
アニメーション部門では第5回(2001年)以来の16回ぶりとなる2作品同時の大賞受賞となった。受賞作品の1つである、アニメーション監督・脚本家の片渕須直が6年の歳月をかけて劇場アニメーション化した作品『この世界の片隅に』は、2015年に開始したクラウドファンディングで3000人以上のサポーターから制作資金の一部を集め完成した。「刺激的で動きの激しいアニメーションの多い中、日常動作に動きの美しさを見いだしている点で特筆すべき作品」と評価された。
もう1つの大賞受賞作品、全編フラッシュアニメーションを用いたオリジナル劇場アニメーション『夜明け告げるルーのうた』は、『マインド・ゲーム』(2004年)や『四畳半神話大系』(2010年)、『ピンポン THE ANIMATION』(2014年)などで知られる湯浅政明が手がけた。両親の離婚で寂れた漁港の町・日無町に引っ越してきた中学生の少年・カイが人魚の少女・ルーに出会い成長していく様子を描いた本作品は「心から好きなものを、口に出して『好き』と言えているか?」という、湯浅が抱いた疑問が出発点となっている。
マンガ部門では、母の残した洋裁店でその人だけの洋服を作り続ける『繕い裁つ人』(2009〜15年)、26歳の独身女性が運命の物件を探す『プリンセスメゾン』(2014年〜)など、これまでさまざまな女性の生き方を描いてきた女性漫画家、池辺葵による作品『ねぇ、ママ』が大賞を受賞。本作には巣立ってゆく息子を持つ母親の思いが空回りする『きらきらと雨』、修道院に暮らす2人の少女の物語『ザザetヤニク』、骨董屋の店主をしている独り身のおばあさんと少女の交流を描いた『夕焼けカーニバル』など「母」をモチーフにした7つの物語が収録されている。
贈呈式は2018年6月12日(火)に、受賞作品展は2018年6月13日(水)〜24日(日)、国立新美術館(東京・六本木)にて開催される予定。
文化庁メディア芸術祭ウェブサイト:http://festival.j-mediaarts.jp/
執筆:中井千尋 編集:岡徳之(Livit)