巷房 (2)小山陽子の作品は、目を凝らさないと何が撮影されているのかわからないような写真作品です。眠れない夜、電気のついていない真暗な部屋の中を、微かな視覚情報を頼りに手探りしているようなもどかしさ。実際小山は、それらのイメージを、深夜、自宅の部屋の中で撮影しています。暗闇に目が慣れ、どうにか見えるようになってきた世界は、小山にとっては大きな驚きでした。暗闇の中から現れた世界は、ところどころモザイク状になっていて、わたしたちの見知っているデジタル・イメージのピクセルとあまりにも似ていたのです。けれども、彼女が求めているのは、視覚的な面白さだけではありません。小山の作品の中で、頼りなく立ち上がってくるイメージは、かろうじてそれとわかるものの、意識を集中させていないと知らぬ間に他のものに姿を変えてしまいます。深夜、朦朧とした意識のまま、半覚半醒の状態で眺める室内も同じです。小さく赤く輝く電化製品のパイロット・ランプは、曠野の彼方に禍々しくきらめく凶兆の星であり、いまにも動き出しそうなカーテンの柔らかい曲線は、恐ろしさのあまり見上げることもできない、魔女のドレスのようでもあります。気を落ち着かせようと燻らせたタバコの紫煙は、遠い地平線の彼方に立ち上る空襲の爆煙のようでもあり、普段は気にとめることもない小さな置物も、宇宙の叡智を知り尽くした賢人の冷徹な視線を室内に放ちます。
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