セイコーハウスホール伊東久重氏は、明和4(1767)年、後桜町天皇から「有職御人形司伊東久重」の名を拝領し、以来代々御所人形を制作している伊東家十二世の当主である。かつて京の都で流行病が蔓延したとき、伊東家の祖は、沈静の願いをこめて薬草を刈る「草刈童子」を作り上げた。そして門前に置いたところ、人形が功を奏して時疫はまたたく間に消えていったという噂が天聴に達するところとなり、初代久重がその名前を賜わることとなった。
伊東氏の人形制作は、材の選定、彫り、磨き、顔描きなどすべての工程をひとりで行う。命を削るような克明で精緻な仕事は、熟練の技と高潔な精神の結晶である。伝統の技が素材に姿をつけていくが、人形司の心が最後に人形に命を吹き込んでいく。
「人形は、心を映し出すもの。人の心が汲めないものに、人を感動させる人形は作れない」という祖父の言葉を守り、日々制作に励んでいる。最も神経を使うという顔を描くときの氏の筆は、迷いなく動いていく。
今回は、咲き誇る桜の花々と蝶を伴い軽やかに舞う「桜子」をはじめ、一体一体確かな技と優しくこまやかな心が込められた御所人形たちのほか、桐の柾目(まさめ)に幾重にも胡粉(ごふん)を塗り重ね、その上に顔料や金泥、銀泥で草花の文様を描いた典雅な「胡粉高盛金彩絵」の飾筥など合わせて50余点が出品される。
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