ギャラリー TOM作家の彫刻家としての原風景は、生まれ故郷である瀬戸の広大な粘土の山にある。作家自身の言葉によれば、かれはひとり粘土の山で土と戯れ、生き物を相手に少年時代を過ごし、自然の事物や動物にたいする鋭敏な感受性を培ったのである。だから原風景とは、自らを育んだ粘土への親和感であり、粘土の山での自然との対話なのである。その原体験が、加藤昭男の彫刻表現の原型を形成することになる。かれの制作するさまざまな作品は、粘土の山で体験した自然と人間であり、自然を寓話的に写実したものでもなく、比喩的な表現でもない。かれの造形思考では、人と生き物は境界を越えてお互いに引き合い、反発しながら共存する存在である。加藤昭男の作品の表現を豊かに彩っているのは、彼自身をとりまく小さな動物や植物への限りない愛着、人間を育む太陽や月への想いである。作品は単体ではなく、つねに対の関係で現れ、そこでは見えない力がお互いを引き合い、エネルギーを生み出し豊穣な世界を創造する。こうした作品は1960年代の中頃から始まっているが、その作風は粘土との緊張感にみちた対峙を思わせるものである。それから約半世紀をへた今回の個展では、粘土との厳しく造形的で抑制的な格闘は姿を消し、粘土と融和した時間から生まれた優しい作品が展示される。加藤昭男の冒険心にみちた一歩が始まる、新しい展開が期待される作品展である。
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