森美術館建築界の巨人、近代建築の始祖、20世紀最大の建築家−さまざまな呼称を冠せられるル・コルビュジエ(1887-1965)。彼はまた多くの絵画や彫刻を生み出した一人の画家でもありました。本展ではル・コルビュジエの人間としての魅力を通して建築、絵画、家具までの多彩な業績を約250点の作品で紹介し、これまであまり知られることのなかった素顔のル・コルビュジエ像に迫ります。
展覧会の冒頭に現れるのが、パリのアトリエを原寸大で再現した空間です。彼はここで毎日午前中は絵を描き、彫刻制作にいそしみ、午後になると建築の仕事のため事務所へ出かけました。このアトリエはル・コルビュジエの創造世界への入り口となります。ル・コルビュジエにとって絵画はインスピレーションの源泉であり、自己を探求する場でもあったのです。また、彼の建築の仕事は今も日本や世界中の人々に愛され、つねに話題となり、実際に見たい、体感したいと言われ続けています。本展ではル・コルビュジエの代表的建築や、都市計画を、彼があらわした理念とともに図面や大型模型、映像で紹介。さらに原寸大に再現した模型の中でル・コルビュジエの世界を実体験しながら家具や作品を鑑賞していただけます。
展覧会の最大の見どころとして再現した、集合住宅のマルセイユ・ユニテのメゾネットタイプ(2階建てアパートの内部)と彼の終の棲家で日本初公開となるカップ・マルタンの休暇小屋(ともにフランス)ではその中へ入り、住まうことを想像しながら全身でル・コルビュジエの空間を体感していただけることでしょう。
2007年はル・コルビュジエ生誕120周年となり、昨年には、彼が晩年まで手がけていたフィルミニー・ベールのサン・ピエール教会(フランス)が完成、また世界各地にあるル・コルビュジエの作品の数々をユネスコの世界遺産に登録しようという動きがフランスを中心に起こっています。この機に、本展ではル・コルビュジエその人をアートと建築の創造者という総合的な観点で紹介します。彼がめざした人間的な生活、彼が生命を吹き込んだ建築の本質とは何だったのでしょうか。偉大な建築作品の隣に存在する絵画や素描や彫刻がその問いの答えを導いてくれるかもしれません。