ギャラリー・エフ中国湖南省江永県において、女性たちの間だけで数百年に渡り伝承されてきた文字、女書(ニューシュ)。封建社会の厳しい性差別の中で、教育を受けることも意思を表明することも許されなかった女性たちは、独自の文字を創り出して自らの感情を綴り、女性間のみのコミュニケーションの手段として共有しました。その起源や全体像は謎に包まれたまま、2004年に最後の伝承者がこの世を去り、女書文化は事実上消滅しました。
言語学を専門とする遠藤織枝は、女書文化の調査研究と保存に取り組む、世界でも数少ない研究者の一人です。1992年に女書に出会い、謎に包まれた文字の美しさとそこに綴られた女性たちの強い想いに魅せられた遠藤は、以来フィールドワークを重ね、研究発表や著書などを通して文化遺産としての保存を強く働きかけてきました。
アーティスト・ YUCA は、2001年に訪れた中国で女書と出会い、その稀有な文化の輝きに心を動かされました。「世界規模で進んでいるグローバル化を砂漠化に例えるなら、消えゆく文化は砂漠に埋もれていく多様性という宝石のかけらである」と語る YUCA は、3万粒のクリスタルを用いたインスタレーション作品を上海(2004)とシドニー(2007)で発表。女書が語る美しい煌めきと悲哀の物語を、美術作品として記号化しました。
感覚に語りかける YUCA の作品と、遠藤の研究が導く学術的理解。展覧会『女書:アート×学術の連歌』は、学術の領域内に留められている希少なモチーフを、美術の力で広く一般へと解放し、共通の課題として提示する試みです。時代の流れとともにひとつの文化が消滅する時、私たちはそこから何を読み取り、働きかけ、未来へ引き継ぐことができるのか。アートと学術が手を繋ぎ、女書という類稀な文化を創造した女性たちの叡智に案内します。
コラボレーションの舞台となるギャラリー・エフは、江戸時代末期の浅草に建てられ、関東大震災と東京大空襲の猛火に耐えた土蔵を再生したアートスペースです。1996年、取り壊しの危機にあったこの建物の再生プロジェクトを始動させたのは、有志のアーティストたちでした。以来、歴史的建築物が置かれている現状への関心を呼び掛けつつ、現代美術が世界に担う役割を様々なテーマで提示しています。
本展では、遠藤が収集した貴重なオリジナルのマニュスクリプト(三朝書/さんちょうしょ)、そこに綴られた女性の歌を紹介するとともに、祝福と哀痛が交差する両義的な女書の世界観を描く YUCA のサイトスペシフィックなインスタレーションが展開されます。二つのアプローチから辿る、消えゆく文化の深遠。その煌めきが、時空を越えた連歌を奏でます。
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