池田20世紀美術館線幸子は、綿を幾重にもドローイングした「層シリーズ」等、20年以上にわたり、「綿に描く作品」を作り続けて来た。無機質なアクリル・ボックス内に柔らかい有機物の真綿に着色。シャープな線描が交差し絡まり合い、綿独自の繊細な質感とぬくもりが、遠い記憶の彼方へと優しく導いてくれる。私が見る限り、この2,3年前より次の段階に展開してきた印象を受ける。おそらく2008年に文化庁の海外派遣で、3ヶ月ベルギーに滞在した事が要因の一つだろう。決して方向感覚が良いとは言えない彼女は福島なまりの英語を武器に現地で自転車を購入し、一日中、汗をかき、街という街を見て廻り、ありとあらゆる物を吸収したのだろう。最初に出会った頃の情熱が思い出される。
そして、この頃から、綿にドローイングが無くなり、「綿で描く」ようになった。記号的な表現から、生き物の表現へ、そんな印象を受けた。それはまるで繭の中から翼を広げ大空に羽ばたこうとしているかの様だ。今回の新作に私の心は動かされた。無機質なボックスの中に炎が舞っている。宇宙空間に漂う雲の静かな流れ、放射線状に延びた蜘蛛の糸、その張り詰めた糸に心を捕らわれた。線幸子が正面から真綿と向き合い、真摯に素材と取り組みドキドキし、目を輝かしながら、制作した作品は、私達見る側に素晴らしい感動を与えてくれる。
ATELIER・K ART SPACE 中村 きょう子
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