Takuro Someya Contemporary Art本展の中心となる『Abstract Browsing tapestries』は、ウェブページの画面構成を抽象化した絵画作品で、2014年にローゼンダールが開発したプログラム作品『abstract browsing .net』がベースになっています。これはウェブページ上にある情報(画像、配置、テキスト)をすべて明るい色の幾何学的な配置に反転するプログラムです。彼は、私たちにもよく知られたサービスのサイトから、このプログラムで1000以上のイメージをつくり、その中からウェブ上で「美しさが必要とされなかった」コンポジションのものをあえて選んで絵画化しています。このプロセスは、ウェブページを抽象化するプログラムによって、その広告的な仕組みを批判的に検証するような視点もあらわすためです。また、メディウムとして織物を用いることによって、前回の個展「Somewhere」のステートメントでも触れた通り、織り機とコンピューターの起源へ遡り、デジタル化の流れを縦糸と横糸の現実の交差として通時的に示すことで、コンピューターアートによって生まれたもののすべてがスクリーン上に映し出されるわけではないことを物語っています。このように本作は最もローゼンダールらいしい作品と言えるコンセプトとユーモアが体現されています。ウェブやレンチキュラーでローゼンダールの作品をみることとまた別の、視覚だけでない触覚にも訴える体験を得ることができる本作は、赤青緑、そして蛍光色、ジャガード織りと用いられた糸の特有の重層的な絵肌が生み出され、柔らかい色彩の深みが、不思議と構造色を感じさせ幾重にもなるコンセプトに思いを巡らす楽しみをもたらしています。
この個展では、最近作『Shadow Objects』も数点が発表されます。レーザーカッターにより幾何学的な幾つかの形にシェーディングを施されたアルミプレートでつくられたこの作品には、最も効率的に素材を切り出す構成を、計算から導き出す工業的なアルゴリズムが用いられています。作品の様相は、その空間の光と鑑賞者の視点により規定されます。光と影をあつかった作例は、美術史のなかで枚挙に遑がありませんが、例えばモネの『ルーアン大聖堂』のような聖性とは全く異なる感触を持っているでしょう。本作のような光と影の構成については、ウェブ作品にもみてとることができます。例えば、デュシャンの『自転車の車輪』をモチーフに、物と影の因果関係を単純化した『le duchamp .com』。図形を左右に動かすと、不規則に因果関係が消失してしまう『beef chicken pork .com』。この両者によって、プログラムがあらわす運動は、架空と現実の動きの間にある「実感」として示されています。このようなウェブ作品をとおして『Shadow Objects』を観ると、厳密な計算と装置によって切り出されたシェーディングが、まるで影もプログラムするかのように、自然法則をも内側に取り込むように静かに佇んでいることが分かります。ジャッドの『Specific Objects』を引用したようなタイトルからも推察されるように、アメリカ美術のなかで育まれたハードコンセプチュアルの地平が、現代の新たな「実感」として再び展開し始めているのかもしれません。