SAIこのたびSAIでは、2021年1月19日(火)より、戦後ドイツを代表する芸術家の一人であるヨーゼフ・ボイス(1921-1986)のポスターエキシビションを開催いたします。
それまでの「美術」の枠組みを超えるものを追求し、社会についての自らの思想や主張を多様な作品を通じて発信したボイスにとって、ポスターは単なる告知や作品の副産物であることを超えて、一つの作品として重要な媒体でした。ボイスは、人間は誰もが芸術家であると主張し、「神聖な一人の芸術家が作品を制作する」というモデルを超える実践を次々に行いました。彼は、芸術とは、人間が自らの持つ創造力を用いて新たな社会を作り出そうとする全てのプロセスを指すと考えていました。つまり、彼にとって芸術とは、その成果物としての絵画や彫刻といったいわゆる美術作品の枠を大幅に超えるものだったのです。その中には、およそ芸術とはみなされてこなかった政治的な活動も含まれていました。ボイスは直接民主主義の実現を訴え、「創造性と学術的研究のための自由国際大学」の設立や、「緑の党」からの出馬などを行うと同時に、人々に社会参画を促す集会、アクション、呼びかけを、「作品」として積極的に行いました。このような思想のもと、ボイスは、素描、マルティプル、アクション、ポスターなど、多岐にわたる媒体で多くの作品を制作しました。
したがって、ボイスにとって、他の人々との共同作業によって成り立つポスターの制作自体が、伝統的な芸術観を打ち破る象徴的な行為でした。実際、ポスター制作において、ボイスはデザインや文字組などの細かい指示は行わず、デザイナーやプリンターにほとんど全ての工程を任せていたことがわかっています。ボイスが残したポスターは、約290種類にものぼります。
さらに、大衆に強い関心を抱いていたボイスにとって、ポスターは政治的ステートメントや問題提起を発信し、大衆の社会参画を促す大きな力を持つものでした。自らの思想や主張を大量にばらまき、そしてそこに描かれた以上のことを想像させるために、ポスターはうってつけの媒体だったのです。
これらのポスターにしばしば現れるボイス自身の顔や姿は、見る者に強烈な印象を残し、彼のカリスマ的イメージの形成につながりました。本展の元となった清里現代美術館(2014年閉館)の伊藤修吾氏・伊藤信吾氏によるボイス関連の膨大なポスターおよび書籍のコレクションは、そんなボイスに魅せられたコレクターたちがいかに情熱をかき立てられたかを示す一つの例と言えるでしょう。
また、今回はボイスが教佃を執ったデュッセルドルフ芸術アカデミーを通じて交流のあった作家、ブリンキー・パレルモとゲルハルト・リヒター、そして国際的パフォーマンス集団のフルクサスで活動を共にしたジョン・ケージの作品も合わせて展示いたします。同時代のアート・シーンにおける強力な磁場としてのボイスの存在も浮かびあがるでしょう。ボイスの思想と作品を概観できるポスター群が一堂に会する貴重な機会に、是非足をお運びください。
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