gallery αMαM プロジェクト 2020-2021「約束の凝集」第5回は高橋大輔の個展「RELAXINʼ」である。本展は、高橋がここ数年てがけてきたさまざまな「絵画」から構成される。本展をつうじて、高橋大輔という画家は、絵画をやることを、こんなふうに延ばしたり叩いたり畳んだりしているんだな、ということが共有できれば嬉しい。良い時間が流れていると思う。
高橋は近年、それまで彼の表現の特徴であった極端に厚塗りな画面とは異なる「絵画」を続けている。変化のひとつに、モチーフの出現が指摘できる。5年ほど前に高橋は「自身が絵を描こうというときに、これを描きたい、という、通常の意味でのモチーフがみつからなかった」と書いている。抽象的な絵画であっても、そこには制作のモチベーション(動機)があるのだと、モチーフとモチベーションの語源的一致を強調したりもしているが、いっぽうで制作のスタイルに変革を試みている。
色鉛筆でドローイングを繰り返すようになった画面には、1円玉硬貨の装飾にある植物や、「縄文・弥生 ...」といった時代区分など、具体的な線や文字が認められる。2018年には自画像も発表されている。こうした変化を、たんに抽象から具象への移行であるとか、厚塗りが抑えられてきたといった絵画言語的な側面ではない方向から受けとめるようにしたい。彼の絵画の変化は、平面的にではなく、立体的に——彼の絵画はかつて頻繁にそう形容されていた——受けとられる必要がある。
《曲がり角のビル》は、高橋が毎日紙粘土のブロックに着色をしていったものである。小川町駅(埼玉県)から彼のアトリエに行く途中にある旧・整骨院のビルは、淡い緑と黄緑色の壁面をしており、整骨院のマスコットキャラクターのピンク色のゴリラの看板が強く目を引く。高橋はそのビルの印象を、紙粘土の塊へと落とし込んでいった。紙粘土の袋を開け、ごそっと取り出したまま、単色に着彩する、その反復と継続。長方形の塊自体は、旧作においてもレリーフ状の筆触ともいうべきかたちで現れていて、それは高橋の絵のなかでもとりわけ異彩を放っていたのだが、《曲がり角のビル》では、そうした要素がものすごくへんなところから生長して芽を出している。
日々の生活が多忙になるに連れて、制作時間は目減りしていく。つねに集中は断ち切られ、まとまった時間はとれず、一日の残り時間のわずかなあいだに少しだけ手を動かす。本展で発表される、ドローイングも、ラミネート加工されたカードも、単色に着彩された紙粘土も、それらがどれも反復を織り込んだ連作であることも、油彩画でないことも、「生活の喜びと労働を絵に対立させることなく絵を描きつづけたい」というモチベーション(動機)からきている。ここにはたんなるロマン主義的、表現主義的画家アイデンティティの葛藤以上のやりとりがある。モチーフとモチベーションの一致の深化。貧しても鈍しないという回路の開拓。生活は制作の敵ではけっしてない。生活を犠牲にせず、家族との暮らしに喜びと発見を見出しながら、絵を続けていけるのではないかという手応えが、形と素材に現れている。
とはいえ、本展では油彩画も展示される。最大のサイズとなる《Toy(虎)》は、高橋が子どもの遊んでいたおもちゃを片づけるときにピンときて描けたという、300 号の油彩画である。こういう書き方をあえてするが、この思わず笑ってしまう矛盾の振り幅そのものが、本展の最大の見所だと思う。展示タイトルは制作中によく聴いているというザ・マイルス・デイヴィス・クインテットのアルバムタイトルからきている。
※10/2(土)まで新型コロナウイルス感染拡大防止対策のため、開廊時間を12:00~18:00に変更しておりますが、9月末に緊急事態宣言が解除された場合は、10/5(火)から通常どおり13:00 ~ 20:00に開廊いたします。
まだコメントはありません