銀座メゾンエルメスエルメス財団は、ブリュッセルを拠点に世界的に活躍するベルギー人アーティスト、アン・ヴェロニカ・ヤンセン(1956年、イギリス・フォークストン生まれ)の日本における初個展「東京、銀座5丁目4-1」を開催いたします。1970年代後半から、合板、ガラス、コンクリートといった簡素な素材を用い、1990年ごろからは、光、音、人工煙霧といった要素を用いながら、常に実験的な試みを継続してきたヤンセンの作品は、彫刻、インスタレーション、ビデオ、写真、コンテンポラリー・ダンスの舞台美術など多岐にわたります。
工業的な素材の使用や、展示する場の固有性を問いかけるミニマリズムや、空間と光について科学的に考察するライト&スペースなどの芸術的動向との類似点を持ちつつも、ヤンセンの作品は、極めて控えめな姿で私たちの前に現れます。その探究は一貫して、世界に対する身体的知覚、そしてその中における認識の危うい不明瞭な領域を触発し、固定された形や直接的に把握可能な形を強いることなく発生します。
また、彼女の活動は、アーティストと科学者が共同で空間、時間、身体そして脳の関係を探るプロジェクト「ブレイン・スペース・ラボラトリー」の設立(ナタリー・エルジーノとの共同設立、2009年)などを通じた学際的な対話や研究にも及んでいます。
本展は、90年代以降継続するヤンセンの一連の作品によって構成されます。銀座メゾンエルメス ル・フォーラムのアドレスを、タイトルとして取り上げる眼差しには、場所への身体的、感覚的、かつ概念的なヤンセンのアプローチが強く示されています。特定のアドレスに宛てられ、その空間の物理的な観察から構想された作品は、拡散する光を物質として扱う《Rose》、瞬間の痕跡を記憶する青いグリッター《Untitled (blue glitter)》、熱反応フィルムで覆われた座面を持つブランコ《Swings》、自身の声をメディウムとする新作《Donut》などの10点余りです。これらの作品群は、場所に与えられた固有性を揺るがし、時間、光、空気を操り、風穴を開け、気流を生み出し、感覚の緩衝地帯とも言える見えない建築を作り出していきます。
ヤンセンは、自らのアプローチについて、「コントロールの喪失、権威主義的な物質性の欠如、そして物体の専制から逃れようとするこの試みの中」*に作品を見出そうとしていると語ります。精緻さの中に光沢、軽さ、透明性、流動性を湛える作品から放射される超越的な感覚とともに、私たちは自らが空間に拡散し、浸透していくような錯覚を体験するでしょう。
2015年、エルメス財団のアートスペース「ラ・ヴェリエール」(ブリュッセル)では、アン・ヴェロニカ・ヤンセンとミシェル・フランソワの『Philaetchouri』展を開催致しました。さらにアーティスト・レジデンシー・プログラムにおいても、2014年から2016年まで、ヤンセンは招聘された3人のアーティストのメンターも務めました。
*パスカル・ルソー、「Light Games」『art press 第299号』、2004年2月
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