渋谷区立松濤美術館白井晟一(1905-1983)は、1950 年代に設計した一連の公共建築や、戦後の建築・芸術界で巻き起こった「伝統論争」への参画で注目を集めた建築家です。1968 年度の日本建築学会賞を受賞した《親和銀行本店》や住居《呉羽の舎》、未完のプロジェクト《原爆堂計画》をはじめ、その作品は現在でも高い評価を受けています。
彼の主宰した白井晟一研究所は、精緻かつ優美な図面を作成したことでも類まれな存在でした。図面は、建築の形態とともに白井自身の設計思想を内包する媒介物で、それゆえに作成された図面には独特な精神性が漂います。薄いトレーシングペーパーに描かれた線描は実体化する前の建築の気配をたたえ、建築と設計者、そして施工者をつなぐはかない幻のように佇みます。その存在感は、建築作品のタイトルや自筆の書のモティーフとして白井が好んだ一字、「雲」になぞらえることも可能でしょう。
建築の展覧会では多くの場合、図面は写真や模型と同様に建築物の代理表象として扱われます。しかし本展では、白井晟一の主宰する設計事務所が作成した原図面そのものに焦点を当て、その魅力をあますことなくご紹介すること——白井がよく揮毫した言葉に倣うならば、雲を顕(あらわ)すこと——を目指すものです。
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