再生紙でできたボロボロの童謡の本が土台となった作品があらわすように、チャップマンの描く陰鬱な背景と不安を覚えるような人物像は、子ども時代のイメージを覆すものです。少年少女や子ウサギなどの登場人物はやさしい色合いでやわらかく、丸みを帯びて描かれるものの、彼らは幽霊の出そうな風景のなかに閉じ込められたように佇んでいます。輪縄と踏み台が登場する作品にはふんだんな余白が設けられ、絵具を垂らし、テレピン油を黒い帯のように落とすことで不穏かつ不明瞭なナラティヴの流れる空間を創出しています。各作品のタイトルはサイコホラー映画『ファニーゲーム』[1]や、スティーブン・キングの『ほら、虎がいる』[2]、昨今の精神衛生に関する啓発本『Mindfulness and the Art of Managing Anger』[3]などに言及するものです。チャップマンは不気味さや不条理、やさしさについての独自のビジョンを前橋にもたらします。彼の辛辣で非凡なユーモアはわたしたちが生きる情報化社会の混沌を浮き彫りにするかもしれません。
ディノス・チャップマンは1962年、ロンドン生まれ。ロサンゼルス在住。1988-1990年、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(ロンドン)在籍。近年の個展に、「Just the End of the World Again」(Ratio 3、サンフランシスコ、2022年)、「Blood Shit + Fluff」(One Trick Pony、ロサンゼルス、2021年)など。チャップマン兄弟として、世界各地の主要な美術館とギャラリーで作品を展示。ヒューストン美術館、クンストパラスト(デュッセルドルフ)、ニューヨーク近代美術館、パラッツォ・グラッシ(ヴェニス)、テート・ギャラリー(ロンドン)などが作品を収蔵。
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