Elizabeth Glaessner. Sphinx with arms, 2024. Oil on linen. 137.2 x 241.3 cm | 54 x 95 inch. Photo by Guillaume Ziccarelli. Courtesy of the artist and Perrotin.

エリザベス・グラスナー 「HEAD GAMES」

ギャラリーペロタン東京
8月31日終了

アーティスト

エリザベス・グラスナー
エリザベス・グラスナーの絵画制作は、油絵具をキャンバスに垂らすことから始まります。キャンバスの表面に絵具が溜まると、グラスナーは絵具を押し、広げ、重ね、形成し、拭き取るなどして、神秘的で幽玄な人物像を描き出します。豊満で脚の長い、概してヌード姿の人物像を描き出すために、道具工業用ブラシ、ハンドル、スクイージーといった道具が用いられます。鮮やかな飽和色が、より落ち着いた色調やアースカラーと出会い、フォルムとフォルムが融合することで、顔つきなどの微細なディテールが浮かび上がってきます。これらの人物像はしばしば、動作や変化の瞬間を捉えたものです(例えば、ゴルフクラブを振っていたり、水に浮かんでいたり、抱擁のさなかであったり、反射する自身の姿を見ていたり、融合していたりします)。グラスナーの制作プロセスは、その絵に描かれている人物たちと同様に、“変容”そのものなのです。

展覧会「Head Games」は小型絵画 15点と大型絵画2点によって構成され、グラスナーの画家としての美意識の高さと広がりを示す内容となっています。展示作品には、ピクトリアリズム、プロセス、パフォーマンスといった要素が集約されており、グラスナーの油絵具の技巧が光るだけでなく、私たちの自身や他者に対する認識がいかに想像と現実の作用次第であるかをも指し示しています。このように小型の絵画作品が一堂に会して展示されることはごくまれで、グラスナーの独特な制作プロセスや、その心の内を垣間見ることができるでしょう。

グラスナーはたびたび、“反復”を通して構想を練ります。カリフォルニア州パロアルトに生まれ 、テキサス州ヒューストンで育ったグラスナーは、2007年ニューヨークに移住しました。ガルベストン湾とメキシコ湾にほど近い沿岸都市・ヒューストンの気候は高温多湿で、まるで霧のなかを歩いているように感じられます。グラスナーはよく、大型のブラシを慎重に動かしては繰り返し構図をぼかしており、描かれた人物が靄や水のなかにいるようにも見えるため、或いはヒューストンがグラスナーのヴィジョンに与えた影響を考えてみたくなります。しかし、より直接的な影響としては、前述のガルベストン湾とメキシコ湾の間に位置するガルベストン・アーティスト・レジデンスでの2019年~2020年の滞在が、グラスナーの作品に刺激を与えたといいます。滞在中、グラスナーは自分自身の作品への理解を深めるために、集中してアイデアを具現化・試行する時間を持ちました。

本展にて公開される新作絵画には、西洋文学やギリシャ神話に基づく物語など、グラスナーが長年関心を寄せてきた複数のテーマが継続されています。また、エジプト神話における天空の女神である“ヌト”は、アーチ型の体を通して、頻繁に暗示されています。他の神話上の生き物も再文脈化されており、例えば《Mimesis》では“ピュグマリオーン”と“ガラテア”を観察する小さな第三の人物が遠近法を歪め、ピュグマリオーンとガラテアが作為的であることを示唆しています。グラスナーのスタジオは物語、文章、詩の断片で埋め尽くされており、前述の作品制作中には壁にゲオルク・トラークルとシルヴィア・プラスによる、いずれも変容の特異性について綴られた詩が貼られていました。ただし、グラスナーの絵画はこれらの文章の単なる解釈や再話ではなく、明晰で巧みな形式主義を通して文章を再構想し、そのエッセンスを抽出したものです。

今回展示される小型絵画のスケール感は、ごく細部まで観察することを可能とし、その謎めいた物語のみならず、グラスナーの制作プロセスを窺うことができるものです。大型絵画と比較して“身体性”の要素は少ないものの、小さなペインティングも負けず劣らず動作的かつ物質的です。
注意深く見ると、グラスナーが絵具を何層も丁寧に塗り重ね、直感的な質感を創り、さらにそれらを巧みに処理することで、豪華で凹凸のある表面を生み出していることがわかります。またいくつかの作品には、油絵具とキャンバスの双方に抵抗を加えるために、グラスナーが絵具に混ぜ込んだ小さなガラスビーズが見てとれます。あるいは、垂らした絵具をキャンバスに塗り広げ、全体が色彩でなめらかにコーティングされている作品もあります。グラスナーの筆遣いは“反応”であり、それは線と形が互いに呼応してフォルムを生み出すさまと同様です。

このコール・アンド・レスポンス(呼びかけと応答)は、描かれた人物たちの曲がったり這ったりする姿勢にも美学的に示されているでしょう。四つん這いの像は、ウィリアム・ブレイクやルーカス・クラナッハ、馬の模型などに由来するポーズであり、肉欲的なものと子どもらしさとの間で揺れ動きます。《Grass Play》や《Head Games》などの一部作品に登場する2人組や3人組の人物たちは、大きな人物が小さな人物を産み落としたかのようにも見えます。あるいは《Creature》のように、画面いっぱいに描かれた人物が頭を上に傾け、妖しい眼差しで何かを探し求めるような表情をしています。こうした人物たちは総じてアクアグリーン色であり、この色は《Sphinx with arms》や《Sirens》など、作品群を通して見ることができます。前述の2作品では、いずれもスフィンクスが海底の砂の上に横たわっているかのように、下部には明るい砂茶色の帯が描かれ、その背後には、海のリズムに巻き込まれた幻想的な小さな人物が浮かんでいます。手鏡サイズのこれらの作品は、グラスナーがより大きな絵画へと変容させる前に、ポーズや人物、フォルムを実験的に探求するための手段でもあります。このようにして、「Head Games」は見る者をグラスナーのヴィジョンへの追体験へといざなうでしょう。

スケジュール

開催中

2024年7月2日(火)〜2024年8月31日(土)あと44日

開館情報

時間
11:0019:00
休館日
月曜日、日曜日、祝日
入場料無料
会場ギャラリーペロタン東京
住所〒106-0032 東京都港区六本木6-6-9 ピラミデビル1F
アクセス都営大江戸線・東京メトロ日比谷線六本木駅1a・1b出口より徒歩1分
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