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Bachelor I , 2025, acrylic on canvas, 158.6 x 128.4 x 4.1 cm

エリン・ライト 「Nearly Natural」

MAKI(天王洲)
終了しました

アーティスト

エリン・ライト
このたびMAKI Galleryは、ロサンゼルスを拠点に活動するアーティスト、エリン・ライトの日本初となる個展「Nearly Natural」を天王洲ギャラリーで開催いたします。今回発表する新作において、ライトは“盆栽”という的確かつ力強いメタファーを通じて現代社会を鋭く洞察し、制御下の育成と自己演出の美学の間に生まれるささやかな対話に焦点を当てます。

本展の中核には、盆栽と現代を生きる独身男性の姿を重ねた、ライトの鋭い概念的対比が据えられています。意外性に満ちていながらも本質を突くこの比喩は、独身男性が日々ひそかに行う身支度の儀式と、盆栽の育成に通ずる規律や自制心、そして美的管理の意識を浮き彫りにします。作家は、慎重な手入れと調整によってつくられていく樹形と同様に、個々の人間もまた、趣味嗜好やアイデンティティ、魅力の基準といった目に見えない枠組みによって形成されていることを指摘します。こうして生み出される“かたち”は常に変容しており、有機的な本質とソーシャルパフォーマンスが複雑に絡み合った状態で存在しています。

「Bachelor(バチェラー)」シリーズでは、このようにして“形成された存在”のさまざまな段階が、意図的かつ控えめなユーモアを交えて描かれます。例えば「Bachelor I」では、主題である盆栽が建築物に使われるような金属製の支柱に囲まれており、それは構築された環境によって形づくられたアイデンティティを暗示します。「Bachelor II」は、熟した果実をたわわに実らせた盆栽が男性の身体を想起させるように描かれ、“well-hung man(立派な生殖器に恵まれた男)”といった隠喩を体現することで、意図的に豊かな実りの瞬間を表しています。一方「Bachelor III」では、まばらに生える葉の散りゆく盆栽が加齢や薄毛といった外見の衰えへの不安を示唆しており、変化の必然性の中で望ましい自己像を保ち続けることへの困難を表現しています。また、とりわけ目を引く「Bachelor V」は、満開のツツジを描いています。ツツジは本来、盆栽に不向きな植物とされていますが、それゆえに本作は、思い通りに捉えることが難しい対象をよりリアルに、より効果的に描こうと絶えず追求し続けるライトの試みとも重なります。ツツジの儚くも壮麗な開花の様子は、理想化された美がいかに一時的なものであるか、そしてどれほど綿密に作りこまれた姿であっても避けられない無常を改めて浮き彫りにします。ライトが“ポートレート”と呼ぶこれらの作品は、自己の反復的な性質をあらわにし、理想像を追い求める過程における個人の連続性や変化を示唆しています。

ライトは「Bachelor」シリーズ以外の作品においても、精緻な構想と個人的儀式との関係に目を向けています。「Tokonoma」は、いわゆる“床の間”を自己演出のための現代的な祭壇として再解釈した作品であり、彼女の父親が作った陶器の皿や自ら育てた盆栽、そして息子のスケッチといった私的な要素が配されています。また「Dopp Kit」は盆栽道具一式を写実的に描いており、そのありふれた見た目と、道具が生み出す崇高な芸術性の対比を際立たせています。「Shears」は特注で何カ月もかけて作られた一丁の剪定鋏に焦点を当てており、綿密な育成を支える道具の美しい機能性への作家の深い関心が反映されています。

「The Reveal I」と「The Reveal II」では、ライトが実際に育てている樹齢22年(前者)と17年(後者)の盆栽が描かれており、作品の木枠が劇場のカーテンのように開閉する仕組みになっています。4年にわたり盆栽を育ててきたライトの実体験が投影されているこれらの作品は、鑑賞という行為そのものを儀式として提示すると同時に、観る者に直接的かつパフォーマティブな参加を促します。

ライトの芸術実践には、卓越した技術力が必要不可欠です。彼女のアクリル画は、丁寧なマスキングやスプレーガン、そして緻密な筆遣いを駆使して、まるでデジタルで描かれたかのような異様なまでの精緻な仕上がりを実現しています。この厳密なプロセスは盆栽の育成に通ずるものであり、ライトが制作において貫いている“無関心”の姿勢にも結び付いています。彼女が“無関心”のアプローチで築き上げる一見シンプルな構図は、観る者が時間をかけて向き合うことでその複雑性を徐々にあらわにしていきます。作家は絵具を丹念に塗り重ねて新しいフォルムに時代の重みを与え、あたかも何百年も経たかのような風格をもたらします。その筆致は木の自然な老いの過程や、熟成された美を求める人間の習性とも響き合います。

「Nearly Natural」は育成と制御という営み、そして自然と自己の両方を形づくろうとする人間の根源的な欲求について、多角的な思索を促します。精密に描かれた盆栽のポートレートを通じて、現代社会におけるアイデンティティの構築を鋭くもユーモラスに見つめ直すライトの作品を、ぜひこの機会にご高覧ください。

スケジュール

2025年6月14日(土)〜2025年8月2日(土)

開館情報

時間
11:3019:00
休館日
月曜日、日曜日
入場料無料
展覧会URLhttps://www.makigallery.com/exhibitions/12417/
会場MAKI(天王洲)
https://www.makigallery.com/ja/
住所〒140-0002 東京都品川区東品川1-33-10 TERRADA Art Complex 1F
アクセスりんかい線天王洲アイル駅B出口より徒歩9分、東京モノレール天王洲アイル駅南口より徒歩10分、京急本線新馬場駅北口より徒歩9分、JR品川駅港南口より都営バス「天王洲橋」下車徒歩4分
電話番号03-6810-4850
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