小山登美夫ギャラリー六本木 フォローする
この度小山登美夫ギャラリー六本木では、エルネスト・ネト展「Dreaming Beings(夢見る存在たち)」を開催いたします。当ギャラリーにおいて20年ぶりの個展となる本展では、立体作品の新たなシリーズとドローイングを展示いたします。 現代のブラジルを代表する作家の一人であり、国際的にも高く評価されているエルネスト・ネト。1964年、リオ・デ・ジャネイロに生まれ、現在も故郷に在住し、制作活動を行っています。 1980年代後半より、ストッキングに発泡スチロールの玉やスパイスなどを入れたソフト・スカルプチュアを発表してきましたが、次第に大型のインスタレーションへと移行。90年代には、伸縮性に優れた薄い布地を使用し、皮膚や臓器を想起させる有機的なフォルムを持つ体感型のインスタレーションの制作に着手します。また、展示空間の特性に合わせ、天井から吊り下げた布の中に鑑賞者が入り込むことができる「ネープ」(ポルトガル語で「宇宙船」の意)のシリーズを展開し、世界中から注目を集めました。 ネトの作品では、鑑賞者の参加や新たな表現空間の創造を目指し、1950年代から60年代にかけてブラジルで興った新具体主義が継承されています。それは、視覚だけでなく、嗅覚や触覚などのさまざまな感覚を総合して作品を体感することを通し、鑑賞者に自らの身体性や存在を再認識させ、さらには他者や宇宙とのつながりを感じることを促すしなやかな装置ともいえるでしょう。 主な個展として、グッゲンハイム美術館ビルバオ(2014年)、バイエラー財団によるチューリッヒ中央駅でのインスタレーション(2018年)、サンパウロ州立美術館(2019年)、パリのグラン・パレ(2025年)などがあり、また、サンパウロ・ビエンナーレ(1998年、2010年)やヴェネチア・ビエンナーレ(2001年、2017年)、リヨン・ビエンナーレ(2017年)など、数多くの国際展やグループ展にも参加しています。日本では、丸亀猪熊弦一郎現代美術館(2007年)、豊田市美術館(2008年)エスパス・ルイ・ヴィトン(2012年)などで個展、岡山森の芸術祭、金沢21世紀美術館、東京都現代美術館などにおけるグループ展に参加しています。 また、その作品は、ポンピドゥー・センター(パリ)、ニューヨーク近代美術館(ニューヨーク)、テート・ギャラリー(ロンドン)、グッゲンハイム美術館(ニューヨーク)、ハーシュホーン美術館・彫刻庭園(ワシントン)など、数多くの国際的な美術館のコレクションに収蔵されています。日本では、金沢21世紀美術館、豊田市美術館、東京都現代美術館などに収蔵されています。 本展にて発表となる新作「SymbioZooEthicalBeings – SZEBs」は、ネトがおよそ40年の制作活動を通して取り組んできた立体作品やインスタレーションの延長線上にあるシリーズです。綿糸を用いたかぎ針編みの網と紐、竹というシンプルな素材からなるSZEBsは、壁や天井にテントを張るような緊張状態を保って設置することにより、展示空間に繊細なドローイングを描き出します。それは、まるで体をくねらせて動く動物や多数の脚を持つ昆虫のようであり、展示空間を前も後ろもなく自由に歩き回る姿を想像させます。また、構造上、呼吸をしているかのように絶えず空気が通り抜けるため、SZEBsは運動し続ける作品であり、その体は通路という性質も持ち合わせているといえるでしょう。 ネトによる造語であるこの「SymbioZooEthicalBeings」という名称は、ラテン語で動物を意味する「Zooa」(または「Zoon」)、共生を意味する「Symbio」、倫理を意味する「Ethical」という要素からなります。「私たちは共生である」とネトは述べていますが、人間を含む動物や植物は細胞内共生を繰り返し、今日まで進化を続けてきました。すなわち、すべての生命は共生の結果であり、ネトの手によって生まれ出たこの有機的な立体作品もまた、「この世界の共生の中で、私たちとともにある」といいます。そして、その明快なフォルムとシンプルな構造は、非理性的で純粋な動物の世界をも示唆しており、彼らの世界の方が、高度なテクノロジーとともに複雑に発展する人間社会よりも倫理的なのではないかと問いかけているようです。 今回展示されるドローイングは、土を素材として2024年に制作された「In Search of a Happy Path(幸福への道を求めて)」シリーズの作品です。これらは筆を握るネトの身振りに伴い、まるで呼吸をするように生み出されました。ネトはそれを筆致であり、行為の痕跡であり、出会いであり、刻まれた時間であり、ダンスであるといいます。そして、ネトの彫刻やインスタレーションに通じるその有機的で柔らかな曲線は、紙の上に現れた生きものたちともいえるでしょう。現代の都市生活では触れる機会が少なくなりましたが、土はネトが暮らすブラジルだけでなくヨーロッパやアフリカ、中東、アジアなど、世界のどの地域においても大地そのものであり、太古の昔から人間の生活と切り離すことのできない重要な要素でした。 ネトはこれまでの制作活動において、物質や存在など、さまざまなものの間にある関係性を主なテーマとし、生命とその概念について表現してきました。今回展示されるSZEBsと土のドローイングーDreaming Beings(夢見る存在たち)は、あらゆる生命への愛と私たちの“家”である地球への讃歌を最も素朴に謳い上げたものといえるでしょう。また、ネトはこの地球上に暮らす私たちについて、地域や文化、言語の違いはあれど、「等しく生命ある有機的な存在であり、日々食べ、眠り、夢を見て、愛することが必要である」と述べています。Dreaming Beings(夢見る存在たち)は「私たちを再び結びつけ、夢見る自由を与えるために」、この空間に展示されます。この貴重な機会にぜひご高覧ください。
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