準備中森ひなたの絵は、紙に鉛筆、色鉛筆、クレヨンを用いて描かれている。
道具を持つ手の動きは、手首のストロークの範囲がそのまま筆幅となり、短い往復の跡が画面全体を埋め尽くしていく。道具から手へと伝わる感覚を確かめるように、彼女は線を重ねていく。
画面の中に現れ始める像は、ぼんやりと知っている何かに近づいていくが、できるだけ遠ざかろうとする。見覚えのある像に寄りかかることは容易だが、そこに従うだけでは、自分が本当に描きたい絵に辿り着けないのではないかという感覚があるという。そのため彼女は、少しずつ積み上げたものを一瞬で消してしまうことを繰り返す。時間をかけて現れた形を、思い切って遠ざける。その勇気を持つこともまた、描くことの大切な歩みだと考えている。時間をかけて描くことと、それを一瞬で手放すこと。その往復のなかで、まだ名前のついていない像が画面に残る。
鍋で炊くご飯から聞こえる、ふつふつと続く音。畑の世話をするとき、土や植物と向き合う時間。故郷である北海道の好きなラジオ番組を聴くとき。森が過ごすそうした時間のなかで、絵は少しずつ形をあらわしていく。それは目的地へ向かうためのものではない、どこか「徒歩」という言葉の速度に似ている。
まだコメントはありません