Mathilde Denize, Contours, 2026. Acrylic and watercolor on canvas, pigments. 130 × 162 cm. Photo by Tanguy Beurdeley. Courtesy of the artist and Perrotin

マティルド・ドゥニーズ 「Time and Light」

ギャラリーペロタン東京
6月27日終了

アーティスト

マティルド・ドゥニーズ
フランス人現代アーティスト、マティルド・ドゥニーズが、ペロタン東京で日本初の個展となる「Time and Light」を開催する。本展において彼女は、これまでの実践を通じて探究してきた一貫した制作倫理̶̶ 一見断片的で、互いに異質にも見える諸形式のあいだに潜在する連続性を見出し、それらを編み直すという実践̶̶ をさらに発展させている。コスチューム・ペインティングに代表される彼女のこれまでの作品では、廃棄された日常的オブジェクトや、自身が過去に制作した絵画を素材として引き受け、それらを切断し、解体し、配列し、縫い合わせ、文字通り「再生」する試みが行われてきた。それに対し本展では、この問いは、ファウンデッド・オブジェクトの取り込みではなく、絵画そのものにより近い位置にとどまる作品へと移行し、絵画的フィールドの内部における操作に焦点が当てられている。

新作《Contours》シリーズによって構成される本展において、ドゥニーズは過去の実践を単に反復するのではなく、タブローという絵画の伝統的形式へとあえて回帰する。しかしそれは̶̶ 絵画を不変の平面として確定させる慣習に抗して̶̶ 完成された平面への後退を意味しない。彫刻的であり、身体的であり、時に可動的であったこれまでの作品の経験を内包したまま、絵画という制度の内部へと再侵入する試みである。《Contours》においてタブローは、安定した終着点ではなく、複数の時間と関係性が折り重なった交感の場として立ち上がるのだ。

この拡張を支えているのは、断片化と再構成を肯定する、マティルドの想像力と思考の磁場である。ここでは、扱われる素材は異なる時間軸へと再配置され、過去の残滓はノスタルジーとして保存されるのではなく、現在の作品を生成する構造的要素として機能する。時間は直線的には進行せず、記憶は層として堆積する。こうした制作行為は一種の考古学的操作となり、掘り起こされるのは失われた意味ではなく、未完のまま残された関係性である。ドゥニーズの作品が放つ不穏な生動感は、この循環̶̶ 切断と結合、忘却と再出現̶̶ そのものから生まれている。

儚いピンクやクレマチスのような紫、光を孕む黄色、深く沈む青、古いビロードを思わせる紅、そして平面を漂う白̶̶映画のセットや広告制作の現場で廃棄された塗料を用いてキャンバスを構成するこれらの色彩は、感覚的な効果にとどまらず、関係性と運動を生み出す構造として配置され、20世紀初頭のモダニズムの先駆者であるソニア・ドローネーの実践と明確な共振関係を結ぶ。近年の大規模回顧展(テート・モダン,2015年やグッゲンハイム美術館, 2023年)を通じて、再評価されてきたドローネーが提唱したシムルタニズム(simultanéisme)̶̶色と形の関係性によって複数の現実が同時に立ち上がるという視覚的アプローチ、あるいは、ドローネーの「色は言葉であり、その関係はリズムである」という考え̶̶は、ドゥニーズの作品において現在形で再構成されている。彼女のキャンバスとそれらが置かれる空間において、彩度の対比や移ろいは、意味が絶えず生成され続ける流動的な風景を作り出し、色彩は意味を指示する以前に、空間と身体に作用する詩的単位として配置される。すなわち、色彩は主題から解放され、独立した生を獲得するのだ。

また、このような構造的思考は、象徴主義詩人ステファヌ・マラルメが探究した類質同形性(イゾモルフィスム)とも交差する。マラルメは詩的言語を単なる伝達道具ではなく、それ自体が空間を構成する「物質」として扱い、言語、音、視覚配置のすべてが調和する構造を追求した。詩は読むものではなく、余白と共に空間として経験されるべきものだったのである。言語、音楽、視覚芸術のあいだに存在する構造的対応関係は、ドゥニーズの作品にも明確に現れている。ホワイトキューブの中で地平線を描くように一本のライン上に並ぶ絵画は、色彩と形態によってリズムを生み出す。その全体は一編のアルバムのようでもあり、同時に楽譜のような構造を成しながら、視覚的言語が音楽的構造へと転位する。そこでは沈黙と間、反復と変奏が空間に滲み浮かぶ。

それは観念ではなく、情動に根差し、意味作用の複数性によって、あるいは微妙で神秘的な諸関係を蘇らせるマラルメ的探求への、現代における一つの応答として位置づけることができるだろう。

しかし、本展において重要なのは、ここで立ち上がる関係性が、歴史の再演に回収されない点である。ドゥニーズはモダニズムや象徴主義を回顧するのではなく、それらが未完のまま残した問い̶̶芸術はどこまで世界と同型になりうるのか、形式はどのように意味に先行しうるのか̶̶を現在形で引き受けている。

《Contours》において、色彩と形態は固定された意味を担うのではなく、自律的に関係を結びながら、時間、光、空間と交わり合う。「一本の線は……それ自身が物質化する出来事である。」というサイ・トゥオンブリーの言葉の通り、絵画は完成された対象ではなく、絶えず偶然性を伴いながら変化し続ける関係の場として立ち上がる。それは単一の視点に回収されない、ポリフォニックな移ろう星座のような関係性である。

その状態において、鑑賞者はもはや受動的な立場にとどまることを許されない。提示されるのは、静的で閉ざされた光学的感覚ではなく、身体と視線、時間と光が相互に関係を結び続ける経験の場である。《Contours》は、絵画を完成へと収束するイメージとしてではなく、想念と知覚のなかで生きられ、経験される出来事として捉え直すことを、私たちに問いかける。

スケジュール

開催中

2026年3月24日(火)〜2026年6月27日(土)あと83日

開館情報

時間
11:0019:00
休館日
月曜日、日曜日、祝日
入場料無料
会場ギャラリーペロタン東京
https://www.perrotin.com/
住所〒106-0032 東京都港区六本木6-6-9 ピラミデビル1F
アクセス都営大江戸線・東京メトロ日比谷線六本木駅1a・1b出口より徒歩1分
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