亀戸アートセンター亀戸アートセンターでは、芦川瑞季による個展「過分の中に不可分を」を開催いたします。芦川はリトグラフを主な表現手段として、都市の風景やそこに残る人の気配を主題とした作品を制作しています。
電線が複雑に張り巡らされた空、廃墟、埋立地、これから人が住み、街として機能していく予定の再開発前の街区といった誰もいないはずなのに確かに何かが存在していたように感じられる場所。芦川は、そうした風景をコラージュ的な画面構成で細密に描き、その世間から放置されたかのような空間や風景の中に、漫画的で単純化されたキャラクターや、妖怪のようにも見える曖昧な「気配だけが残っている何か」を描き込んでいます。それらは具体的な主体を持たず、風景が内包する時間や記憶の層を可視化する記号として画面の中に存在しています。
もともとは漫画家に憧れ、紙にペンで絵を描いていた芦川は、武蔵野美術大学在学中、油絵科から三年時に転科し、より紙に描く感覚に近い表現を求め版画を学び始めます。様々な版画技法を学ぶ中で「描く感覚を大事にしたい」という思いから、描画がそのまま版となる技法のリトグラフをメインに制作を続け、現在のスタイルへと辿り着きます。鉛筆や描画剤による筆致は、刷りの工程を経てインクの質感へと変換され、漫画の印刷面を思わせる独特の平滑さとテクスチャを獲得します。細密な風景描写と記号的なキャラクターの同居は、こうした技法の選択と密接に結びついています。
近年、芦川は余白や余地、入り込むことのできる隙のようなものに関心を寄せています。公共空間や都市の中に存在する、誰のものとも言い切れない場所。電線、放置された物、用途の曖昧なスペース。そうした風景がもつ「解釈の余地」に、作家自身の感情や想像が入り込んでいくプロセスが、本展を形成する軸の一つとなっています。
リトグラフという技法を通して描かれる都市空間に潜む気配や、見過ごされがちな場所に滞留する名付けることのできない存在感。芦川瑞季の描く風景世界を、ぜひ会場でご覧ください。
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