小山登美夫ギャラリー京橋この度小山登美夫ギャラリー京橋では、風能奈々展「私はそこに行ける。あなたも」を開催し、新作ペインティングを発表いたします。
風能は自らの生活での体験や感覚、感情を、時空を超えた新たな世界に昇華させるように緻密に大胆に作品に展開します。
風能作品の大きな特徴として、最初に描いた画面を絵の具の層で塗りつぶし、その上から新たなモチーフを描く点があります。隠れた異層同士が繊細に関係しあって雅やかな複雑さを生み出しており、自身「画面の中には、ずっと昔にあったこと、今はもうほとんどの人が覚えていないような事をそのまま閉じ込め、それらを血肉として、新たな物語が立ち上がるイメージ」であると述べています。
それは、過去の記憶や時、ストーリーが重なり合い現在がある世の中の成り立ちそのままのようであり、この過程により画面には「浮いているのでもない、重なっているのでもない、奥行きという表現では捉えきれない空間的な複雑さ」(長屋光枝「現代美術の展望 VOCA展 2009」カタログ)が立ち上がってきます。
そのマチエールはまるで磁器や彫金のような光沢や、刺繍や織物に似た重層感がありますが、それがアクリル絵具の繊細な筆致のみで生み出されていることに見るものは驚きを感じるでしょう。
今回の作品制作に際し、風能は「異なる時間を包む」ことへの興味を述べています。
新作「月の満ち欠け」にあるような、最近作品に登場するいくつかの丸。無意識に描いていたけれど、もしかしたらこれは月なのかもしれないという気づき。そこからは意識的にあちこち移動して光る月を、「異なる時間軸を包む」ように同じ画面に繰り返し描いています。
「魚の種、果物の骨、時間が経つと忘れてしまう 」は、自身の息子の言い間違いからつけられています。幼い子のその時々の成長と大切な記憶。愛しく切ない日々をまるごと残しておきたいという作家の想いが表れています。
どちらの作品にも似た木が描かれていますが、これらは家の近所にあった松やヤドリギの可愛い丸などにインスピレーションを得つつ、下書きせず、実際にも見ずに描いたほとんど「概念の木々」です。
「松を1度描いてみたらなんとも面白く、なぜ昔から繰り返し描かれてきたのかわかった気がする」と述べ、はるか昔からあるその木の横を息子と歩き、手を繋いだ感触の温かささえも絵に表す。過去から現在、未来へつながる人の営みや自然の慈しみが立体的な物語世界となり、今までの密度の濃い作品からさらに深化を遂げ、風が通り木々が揺らぐような悠久の時の流れも感じさせます。
通底した世界観をもとに、常に自分の感覚に正直に新たな絵画表現を生み出していく風能奈々。彼女の最新の世界観を堪能しにぜひお越しください。
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