東京オペラシティ アートギャラリー家や犬、蝶、花、魚、鳥、草など、岩崎奏波の絵画には日常で目にするようなモチーフが繰り返し描かれている。とは言え、ひとつひとつを丁寧に見ていくと、現実にはない不思議な形をしたものも描かれていることに気がつく。それらが登場する絵画の画面は、まるで絵本の場面のようで、私たちに物語の想起を促すようにも見える。
岩崎は、日常の小さな違和感や、見慣れたものがいつもと違って見えるような瞬間を捉え、絵画に表現してきた。その多くは岩崎個人の印象的な記憶と結びついている。例えば、幼い頃に近所の防空壕跡で見た銃痕や、小学生の時に校庭で見たハブの死骸とその上を飛びまわるモンシロチョウなどの記憶は、現在でも岩崎の作品に影響しており、それらを思わせるモチーフは、いくつかの作品に共通して見ることができる。
記憶とは曖昧なもので、実際にその時に目の当たりにした光景は、時間を経るなかで様々な感情やイメージが重なって思い出になり、時に夢と現(うつつ)が入り混じったような印象に変化していくが、それは岩崎も例外ではない。現実世界では成立しない不完全なものが絵画の世界では自由を獲得できると語る岩崎は、そのような現実を超越した記憶を表現しようとするときに拠り所とするものの一つが、かねてより関心を寄せている世界各地の神話である。記憶の断片と身の回りの事物に神話のイメージを重ね合わせ、自ら物語を想起しながら描き進めていく。とりわけ関心を惹かれているのが、女神の亡骸から食物が生育し、それが人々の主食となったというインドネシアのハイヌウェレ神話や、生命の起源を描いた創世神話である。岩崎は、何かが崩壊したり二項対立するものが掛け合わせられたりすることで別の生命が誕生し、命が循環していくという考えに共鳴しており、作品の随所にそれらを思わせるモチーフやテーマを取り込んでいる。
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