中井輪 「庶民烈伝」

AIR大原Gallery
6月20日開始事前予約制

アーティスト

中井輪
小説家の深沢七郎(1914-1987)は、短編集『庶民烈伝』のなかで、ひとりのおばあさんについて書いています。広島の原爆によって家族を殺され、失明し、独居老人・障害者となった彼女は、それでも頑なに生活保護を受給せず、補償運動にも参加せず、「手が動く限りは」と按摩で生計を立てています。彼女は、被爆の瞬間に見た閃光を「七色に輝く雲」と呼び、そのなかに神様がいたと信じています。光を浴びたことによって、おばあさんは眼球を焼かれ視力を失うわけですが、にもかかわらず、彼女はそれを自身が変化した契機であるとし、その実感を強く握りしめて生きています。このおばあさんを「悲惨」で「不幸」であるとし、「支援対象」でしかないとみなす眼差しこそが貧困なのであり、中井輪は、こうした「庶民」の生の強さと尊厳に深い衝撃を受けたといいます。大量殺戮兵器と映画の光学的経験を安易に結びつけることは慎まねばなりませんが、それでも、このような生がありうるのだということを、中井は制作と展覧会をとおして、考え抜こうとしています。

中井の油彩画は、映像記録と不可分であり、習慣として固定化される手前の人間の身振りに着目するところから始まります。近作では、自身の父の姿を記録する試みや、友人たちに特定の設定や状況、脚本を与えて演じてもらうなど、演出を介したアプローチを行ってきました。現在はとりわけ、ささやかな映画の自主上映会を定期開催し、映画を鑑賞する人々の姿を撮影・再構成し、油彩画へと昇華する試みを続けています。スマートフォンで動画が矢継ぎ早に消費され、絶え間ない自己主張が求められる現代において、ひとつの映画に夢中になっている人の身体は特異な存在感を放ちます。鑑賞者たちは各々の姿勢で光を受けとめようとし、スクリーンの光に釘付けになり、照らしかえされ、いわばすべてが光であるような世界へと溶け出していきます。その姿勢は、真剣な眼差しを向けているように見えて、どこか退屈さや疲労を孕み、力の置きどころに迷い、重心を傾かせてぎこちなく硬(こわば)っています。中井はそのような受動的で、緩慢で、光のゼロ度にまで収束しているかのような身体をじっと観察し、次のように書いたことがあります。ーーしかしそれでも観客は、疲れることと光を受けとめることのあいだで、後者を選び続ける。

本展会期中には野外上映会やワークショップも開催予定です。また、半兵衛麸ビル2F(京阪五条駅下車すぐ)においても、KYOTO INTERCHANGE主催で中井輪の個展「Rin Nakai 20 JUN - 9 AUG」が同時開催されます。あわせてご高覧いただけますと幸いです。

スケジュール

2026年6月20日(土)〜2026年8月9日(日)

事前予約制

開館情報

時間
12:0018:00
備考
不定休。オープン日はHP等でお知らせします。
入場料500円
展覧会URLhttps://rinnakai.jp/exhibitions/06/nqmc-9DW
会場AIR大原Gallery
https://www.instagram.com/airohara
住所〒601-1243 京都府京都市左京区大原来迎院町218
アクセス地下鉄烏丸線国際会館駅より京都バス「野村別れ[里の駅大原]」下車徒歩11分、地下鉄烏丸線国際会館駅より京都バス「梅の宮前」下車徒歩3分
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