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ロドリゴ・エルナンデス 「Fish」

ノナカ・ヒル京都
終了しました

アーティスト

ロドリゴ・エルナンデス
Nonaka-Hill Kyoto は、メキシコ出身のアーティスト、ロドリゴ・エルナンデスによる新作展「Fish」を開催いたします。

理想化、平面性、簡潔に削ぎ落とされた線を特徴とする独自の視覚言語をもとに、エルナンデスはドローイング、ペインティング、彫刻、インスタレーションを有機的に組み合わせ、没入的かつ瞑想的な空間を提示します。木、金属、紙といった素材による作品群は、個人的な想像力、美術史、自然界に基づく象徴的なイメージの領域へと鑑賞者を導き、それらを夢のような気配のうちに異化します。日本での初個展となる本展において、そうしたずれや夢遊的な感覚を通して、時間や場所の非物質的かつ儚い性質をいかに表象しうるのかという、より大きな問いが提示されています。

エルナンデスは、時間を、多くの要素が重なり合いながらひとつの大きな仕組みを形づくるもの、いわば時計のような存在として捉えています。彼によれば、自然界に見られるさまざまなパターンが「対」になることで、はじめて時間の感覚が立ち現れるのです。古代エジプトでは、ナイル川の氾濫の周期と、夜空で最も明るい星であるシリウスの出現とを結びつけることで、時間を測る仕組みが発達しました。同じようにエルナンデスも、イメージやオブジェを空間のなかに上下関係なく配置しながら、それらのあいだに見いだされるパターンを鑑賞者自身が結び合わせることで、意味が生成される状況をつくり出します。そして、その意味の生起こそが、時間に輪郭を与えるのです。本展は、直線的な構成や論理に依拠したものではなく、むしろ全体的で流動的な経験に基づいています。そこでは鑑賞者も作家も、あらかじめ定められた到達点に向かうのではなく、あらゆる方向へ自由に動きながら、意味がほどけ、また立ち現れる過程を体験することになります。

2026年制作のパネル油彩、Time is a fishは、本展の核を示すと同時に、彼の継続的な関心を凝縮した作品でもあります。そこには泡立つ水面を隔てて熊と魚が静かに向き合う姿が描かれています。熊、水、魚の三つの要素は、三角形の関係をなし、循環する構図を形づくっています。エルナンデスの制作のあり方を読み解くうえで、ひとつの重要な手がかりとなるのが、日本の禅宗絵画を代表する作例として知られる如拙《瓢鮎図》(ca. 1413年、京都・妙心寺塔頭退蔵院蔵)です。15世紀前半に活動した如拙によるこの作品は、半ば公案のような性格をもつ絵として知られています。画面には山水風景が広がり、前景では瓢箪を手にした百姓が川辺に立ち、鮎を見つめています。魚を捕まえるにはふさわしくない道具が用いられているこの場面は、どこか戯画的な不可能性、いわば公案のような逆説を示すと同時に、理性によって禅を「捉えよう」とすることのむなしさをほのめかしています。これに対して、熊と魚を描いたエルナンデスの絵画は、より現実味のある場面を示しながらも、両者を永遠に均衡した関係のなかにとどめています。そこにあるのは、欲望の対象そのものではなく、その奥に潜みながら絶えずすり抜けていく意味、つまり時間そのもののように、捉えがたく移ろいやすい意味をあらためて見出すことにあります。現実のメタファーであると同時に、空間を仕切り、見る者の動線を導くスクリーンとしても機能していた如拙の絵画に倣うように、エルナンデスの絵画もまた、インスタレーション内の他のイメージやオブジェと呼応しながら、時間のなかに宙づりにされた空虚な意味の器として機能しています。

エルナンデスによる大判のドローイングは、作家がいまだ行っていない、あるいは行うことのないかもしれない行為を示すものです。やがて手で打ち出された金属、あるいは木彫作品となるかもしれない、等身大の下図であり「モデル」でもあります。そこに示されているのは、きわめて身体的な制作を経てはじめて姿を得る、非物質的な観念の領域です。彼にとってドローイングとは、感覚が記憶へと固まる前の、まだ生のままの知覚に触れるための方法です。さらにそれが金属へと変換されることで、ドローイングのなかの情報はひとつの次元から別の次元へと移行しながらも、集合的無意識からすくい上げられたような原初的な姿をとどめます。

エルナンデスの作品において、イメージは文化固有の意味から解き放たれ、より根源的な次元へと還元されていきます。その過程で私たちは、日本美術やメキシコ美術の簡潔さや優美さ、平面性を重んじる伝統をどこか思わせながらも、そのどちらにも収まりきらない形態に出会います。彼の作品は、メキシコでの生い立ちや旅の経験に根ざした感覚から生まれながらも、そうした文化的な標を越えて、その背後にあるより古い層へと向かいます。そこでは、人類の夢のようなものが静かに息づき、作家と鑑賞者のあいだで、眠りと覚醒の境界もまたゆるやかに揺らいでいくのです。

スケジュール

2026年3月14日(土)〜2026年4月25日(土)

開館情報

時間
11:0018:00
休館日
日曜日、月曜日、祝日

オープニングパーティー 2026年3月14日(土) 15:00 から 18:00 まで

入場料無料
展覧会URLhttps://www.nonaka-hill.com/exhibitions/90-rodrigo-hernandez-fish/
会場ノナカ・ヒル京都
https://www.nonaka-hill.com/
住所〒605-0088 京都府京都市東山区新門前通西野町201-4
アクセス京阪線三条駅2番出口より徒歩3分、京阪線祇園四条駅9番出口より徒歩4分、地下鉄東西線三条京阪駅2番出口より徒歩6分、阪急線京都河原町駅1A出口より徒歩8分
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