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「六人の抽象画家たち―“サイズ”と“スケール”」

GALERIE PARIS
終了しました

アーティスト

小川佳夫、岸本吉弘、小池隆英、酒井香奈、山口牧子、吉川民仁
本展では、小川佳夫、岸本吉弘、小池隆英、酒井香奈、山口牧子、吉川⺠仁という六人の抽象画家たちの仕事を、ギャルリー・パリの空間に一緒に並べる。
このようなグループ展、すなわち芸術研究会「Studio 138」のメンバーのセレクション展は、すでに二年前(2021年)に一度、表参道画廊から機会をいただいて、「Pictorially yours,」展として行っている。その時は、本展の六人の出品作家の中では岸本と酒井が含められておらず、代わりに別の四人の画家たちが入っていたので、本展はその単なる繰り返しではもちろんないのだが、セレクトされたメンバーの紹介展という趣旨の強かった「Pictorially yours,」展のあと、次なる機会をギャルリー・パリからいただいて開催する本展では、来場者に展示を鑑賞していただくうえでの何か具体的な観点をひとつ設定したい(あるいは、すべき)と、私はキュレーション担当者として考えた。
その際に大きなヒントとなったのが、「Pictorially yours,」展の出品作家選定を私がしている中であるメンバーが言った、「自分のスケール感覚にあった大きなサイズの作品が展示できないのであれば、『Pictorially yours,』展への出品は遠慮したい」という旨の言葉であった(同展の時はスペースの関係で、一人一点の出品作は、横型なら80号程度、縦型なら100号程度という限界があった)。今回のギャルリー・パリでの六人の出品作家によるグループ展では、300号(⻑辺291.0cm)、あるいは500号(⻑辺333.3cm)の作品を展示することも物理的に可能である。そして、それら六人は(各々の間に差はいくらかあれ)概して、比較的大きな作品をこれまでよく描いてきている画家たちである。そこで本展では、出品作家たちの仕事を、「サイズとスケール」という観点から展示してみたい。
まずは出品作家それぞれが、自分の「本領」が発揮できると思う大きさを(500号くらいまでというスペース上の制約のなかで)好きに選んで自由に制作したものを、一人一点ずつ展示する。加えて、彼ら―彼らは皆普段、何らかの考えや事情から、小さな作品も制作している画家たちである―が、自分で「小品」と見なすサイズのものも本展に出してもらうことにした。それらは、たとえば単にコレクターに買ってもらいやすいものとしての小品ではなく、また大作のための小さな習作のようなものでもなく、いわば「小品としての小品」である。なお、「サイズとスケール」という本展のテーマを私が出品作家六名に最初のミーティング(2022年9月)で伝えて以来、大きい方の作品についても小さい方の作品についても、キュレーターから出品作家たちに対して、制作に関するそれ以上の注文は、いっさい付けていない。

岸本吉弘は、日頃から巨大なサイズへの憧れを口にしている画家である。その彼が自らの絵画において描こうとして向き合うのは、あれやこれやのものがその姿をとって現れる前の根源にある、存在/形/イメージのマトリックスである。その得体の知れぬものの表現のために、今回岸本は、高さ約2m、横幅約4mという、500号を超えるサイズの作品を制作した。それは本展出品作の中で最大であり、その堂々たる巨大さ、そして彼の小品とのその対比は、本展の見どころのひとつである。岸本は両作品において、いくつものストライプを縦に引いているが、その垂直的構成は、生成力や生⻑性といったもの/ことを強く感じさせる。
小池隆英は、形象という問題を離れて色彩同士の関係性に集中し、その関係性そのもので絵画を作り上げていく画家である。それゆえ小池の場合、ひとつの画面における各色の広がりの物理的な大きさ(あるいは、小ささ)は、その時その時の彼の感覚と―本展出品作家の他の誰にもまして―直結しているだろう。そういう点で〈サイズ〉の問題と密接に結び付いた色彩表現をなす小池の仕事は、岸本のそれとは違ったかたちで、本展にいっそうの深みを与えてくれている。
山口牧子は近年、麻紙の支持体に皺を入れながら、地表を思わせる抽象的な画面を作ってきている。本展に出品される作品も、その流れにあるものである。山口の絵画世界は、大作の場合でも小品の場合でも、それが、もっと大きく存在しているものの一断片であるような感じがするのが、本展のテーマとの関係において興味深い。彼女の画表面は、そのままこの地球/大地と存在的に繋がっているかのようである。
小川佳夫の仕事は、コテなどを用いてのジェスチュラルなストロークを特徴としている。それによって小川は、見えない何かを見えるかたちで画家として表現しようとする。そこには常に、光というものへの彼の意識と希求がある。今回の小川の大きい方の出品作は高さが184cmあり、自分の背丈をいくらか上回るほどのその画面に、彼は体全体を使ってダイナミックにコテを振るっている。他方、小品においては、そのような全身的ストロークはサイズ的に不可能であるが、本展出品作のような成功した彼の小品の場合、小川は手首だけの動きでも、大作に劣らない動感と空間的深みを、その小さな画面において実現しえている。
酒井香奈は、自身の日々の記憶をもとに制作している。記憶を色で捉えるのだという。ひとつの〈記憶=色〉が、別の〈記憶=色〉を呼び起こす。あるいは、先にある〈記憶=色〉に、次の〈記憶=色〉
で応答する。それが進むなかで、画面に彼女の絵画の空間が立ち現れてくる。ところで、酒井は本展の六人の出品作家の中で、おそらく最も普段から意識的に「小品としての小品」にも取り組んでいる画家である。「記憶」というものは、現実の世界においては物理的な大きさを持たないため、そのようなものを出発点とし、支えとする彼女の場合、大きさに捕われない自由さが、他の五人と比べて、よりあるのだろう(だからこそ逆に、酒井においては時に、サイズの決定に他人よりも難しさを感じることがあるのかもしれないが)。
吉川⺠仁の絵画は、彼の目に映り耳に聞こえ、彼の身体や心が感じた、外界の自然現象から始まっている。吉川はそれを、一度深く内面化したのちに、キャンバス上でコテなどを使って絵具を引きずり伸ばして、表出していく。吉川は普段、40号(⻑辺100.0cm)から60号(⻑辺130.3cm)くらいで非常に良い作品を作っているし、「Pictorially yours,」展でも100号(⻑辺162.0cm)程度まで展示できるところ、彼は60号を出したのだったが(これも素晴らしい作品だった)、今回彼が選んだサイズは、私の予想を超えて150号(⻑辺227.3cm)である。その大きく引きずられ重ねられた色面/色層に、私たちの心はどこかへと連れ去られるかのようだ。

来場者の方々には、本展出品作家のそれぞれの〈大作〉と〈小品〉を見比べることで、それぞれの作家の仕事の良さを何か新たに見出していただければと思う。さらには、それを通じて本展が、「サイズとスケール」という伝統的にして今なお興味深い観点から他の現代絵画に関しても再考する一機会となればと思う。
(大島徹也)

[関連イベント]
出品作家による座談会
司会: 大島徹也
日時: 10月29日(日)16:00〜17:30
会場: ギャルリー・パリ
※聴講希望の方は、info@galerieparis.netまでお申し込みください。

スケジュール

2023年10月24日(火)〜2023年11月5日(日)

開館情報

時間
12:0018:00
最終日は17:00まで
休館日
月曜日
入場料無料
会場GALERIE PARIS
http://www.galerieparis.net/
住所〒231-0021 神奈川県横浜市中区日本大通14 旧三井物産ビル 1F
アクセスみなとみらい線日本大通り駅3番出口より徒歩2分、地下鉄ブルーライン関内駅1番出口より徒歩8分、JR根岸線関内駅南口より徒歩10分
電話番号045-664-3917
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