Edit Room私たちはしばしば、自ら経験していない過去を、文化・物語・テクノロジーを介して継承し、あたかも自身の記憶であるかのように再構築します。では、その記憶が世代を越え、さらには地球そのものを離れ、人類が別の生命形態へと変容したのちでさえ、どのように語り直されうるのでしょうか。
本作の映像は、ゲームエンジンを用いたシミュレーションとして、日本の「国生み」神話から、人類の宇宙移住、地球外生命体への進化へと、壮大な時間軸を横断します。物語は終盤から逆行する構造をとり、地球外生命体へと姿を変えた人類の末裔たちが、初めてこの惑星に降り立った祖先の神話を手がかりに、かつての地球を想像し、高度なテクノロジーによってその世界を再現しようと試みます。複数の時間が折り重なるその交差点に「私」という視点が存在し、実在と虚構、未来と太古の起源が接続されながら作品は展開していきます。
神話はしばしばナショナリズムの物語の一部として機能します。しかし徐の作品は、神話的叙述が育む独自性の背後に、むしろ人間に普遍的な構造が潜んでいることを示そうとしています。
たとえば「決して振り返らないで」という禁忌のモチーフは、日本神話のイザナミとイザナギの物語に限らず、オルフェウス神話やソドムとゴモラの物語など、世界各地の神話に繰り返し現れます。人が〈故郷・母語・幼い記憶〉を離れ、振り返らなくなるとき、それは新たな誕生にも似た体験であり、言語を再習得しながら未知の創造へと踏み出す行為にも通じます。
アーティスト/パフォーマーとしての徐は、現実と仮想、過去と未来、記憶と想像、自由と恐れが複雑に交差する「イン・ビトゥイーン」の空間に生きることを自身の経験としてきました。本作は、その境界的な場所から世界を見つめ直す試みであり、歴史や神話を固定的な物語としてではなく、人間の存在がいかに可塑的で、いかに創造的に再構築されうるのかを問いかけるものです。
[関連イベント]
トークショー
日程: 12月19日(金)
出演: 徐秋成、水野幸司(Edit Roomディレクター
※イベント詳細は公式ホームページよりご確認ください。
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