Gallery 38Gallery 38では、6月13日(土)より箱嶋泰美の初個展「Hello」を開催いたします。本展では、箱嶋のキャリア初頭から継続的に作品発表を支えてきた南天子画廊の協力のもと、新作を中心に初期作品から近年作を含め包括的に紹介する展示となります。
箱嶋泰美は、幼少期を東南アジアで過ごした経験を背景に、その都市や街路、そこに息づく人々の気配を主題とし、タイやカンボジア、ベトナムなどを継続的に訪れ、現地でのスケッチや写真取材を重ねてきました。また近年は日本国内を拠点に、現実の風景を再構築する独自の絵画空間を形成する手法を用いて制作を続けています。画面に描かれるのは、街路に佇む人物、移動途中の景色、生い茂るカラフルな植物、建築の壁面や看板といった断片的なモチーフです。それらは明確な物語を語ることなく、場面の途中で切り取られたように描かれています。作品には特有の鮮やかさがあり、東南アジアで体感した強烈な日差しや湿度といった気候が、そのまま画面に反映されているのです。
複数の視点や時間が一枚の画面に折り畳まれ、遠景と近景、記憶と現在が静かに交錯する構造のなかに、箱嶋の表現の核心を見ることができます。人物像はしばしば中心に据えられながらも、物語の主体というよりは風景と人との間に漂うような存在として画面に現れており、そのコミカルで愛らしい造形が独特のユーモアを作品に添えています。そうした匿名性は、個人的な記憶を超えて普遍的な像へと転化し、鑑賞者それぞれの経験と呼応します。植物や建築、身近な日用品といった周辺的要素もまた、強い色彩と大胆な構図によって自律的な存在感を獲得し、画面全体に緊張感とリズムをもたらしています。断片化されたイメージの集積は、時間の層を内包しながら再構成され、現実と想像の狭間に独特の空間を生み出しています。
箱嶋が惹かれるのは、「濃厚で、分厚い光景」だと言います。長い年月をかけて培われた頑丈さ、努力や経験の積み重ねが滲み出た表情や姿、熟成されたその人なりのスタイル、我が道をゆくたくましさ――そうした時間の蓄積が可視化された瞬間に強く惹かれ、スケッチや写真としてアトリエへ持ち帰る。海外では、慣れ親しんだ文化や風習との差異が人々の表情や身なりを新鮮に際立たせる一方で、国内においても同様のものを発見できるかどうかが、制作を続けるうえでの課題であり、探求の軸でもあると箱嶋は語ります。場所を問わず、自然に「描きたい」と思えるものと出会えることを理想としながら、日常の風景のなかに潜む時間の厚みを掘り起こし続けているのです。
本展は、箱嶋がこれまで一貫して探究してきた「記憶の構造」と「視線の再構成」という主題が、時間の経過とともにどのように変化し、深まってきたかを探る機会となります。過去の作品に見られる瑞々しい衝動と、近年作における構成の洗練や空間意識の拡張は、連続性の中で静かに積み重ねられてきた思考の軌跡を示しています。鮮烈な色彩と大胆な構図の背後に潜む時間の重層性。過去と現在が同一空間に立ち上がる本展は、箱嶋泰美のこれまでとこれからを見通す展示となるでしょう。
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