武蔵野市立吉祥寺美術館自由奔放な線を木版で生み出せないだろうか…従来の凸版技法では“線”の表現に不自由さを感じていた萩原が、試行錯誤を重ねて開発したのが木版の凹版化。結果、銅版における、ドライポイントのような軽やかな“線”を手に入れます。そして、凸凹併用の複雑な効果は、萩原に新しいテーマをもたらしました。こうして「お伽の国」シリーズ、続いて「サーカス」や「道化師」のシリーズが誕生。「立ち現れた、陽気な、時に饒舌な世界を、私は大いに楽しんだものである」という萩原の言葉通り、伸びやかな線描と鮮やかな色彩が重なり合い、画面は解放感に満ちています。
本展では、1968年制作の「サーカス」シリーズ、1969年制作の「道化師」シリーズに加え、同年制作の銅版画《clown》3作を展示。同テーマにも関わらず、エッチングの手法で表現された“道化師”は、グロテスクな部分が際立つように感じられ、どこか初期の代表作「20世紀」シリーズを思わせます。旧約聖書やギリシャ神話からも想を得た同シリーズ全11点は、1956年3月に銀座の養清堂画廊で開かれた自身の個展で発表されました。肺結核に侵され、約3年間におよぶ療養所生活のなかで木版画を始めた萩原にとって、退院後すぐに開かれた「萩原英雄版画個展」は、版画による最初の個展になります。闘病中の1955年に制作された「20世紀」シリーズにも《悲しきピエロ》と題された“道化師”を題材とした作品があります。ピエロの役柄を特徴づける白塗りの顔に、アルルカンを思わせる菱形模様の衣装。実は萩原は、芸術家であると同時に、優れたコレクターでもありました。浮世絵からアフリカの民族資料まで多岐に渡るそのコレクションのなかには、“道化師”をテーマに描いたことで知られるパブロ・ピカソ(1881-1973)の版画作品も含まれます。
「ピカソ死す死は平等に公平に」は、折に触れて俳句や短歌に親しんでいた萩原の作。多才な萩原の眼に20世紀を代表する巨匠の芸術はどのように映っていたのでしょうか。本展を通して、萩原が生み出した“道化師”たちの世界をお楽しみください。
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