泉太郎「AASレジデンスプロジェクト『くじらのはらわた袋に隠れろ、ネズミ』」

頭蓋内外出入り自由、泉太郎の映像インスタレーション

poster for AAS Residence Project 2009 - Taro Izumi

AASレジデンスプロジェクト2009 - 泉太郎「クジラのはらわた袋に隠れろ、ネズミ」

上野エリアにある
アサヒ・アートスクエアにて
このイベントは終了しました。 - (2010-01-16 - 2010-01-31)

In Main Article 3 レビュー by 作田 知樹 2010-02-10 print

浅草駅から吾妻橋で隅田川をわたった先の左手に、金色の炎のオブジェ“フラムドール”が乗った巨大な黒いキューブがあります。「スーパードライホール」というこの建物の4階に位置するのが、アサヒアートスクエア(AAS)。ここは、アサヒビールが設備を提供し、アサヒアートスクエア運営委員会が運営しているスペースです。一年を通じて、現代美術から地域の伝統芸能まで様々なイベントが行われています。全国各地の地域のアートを結ぶ「アサヒアートフェスティバル」のイベント会場としてご存知の方もいらっしゃることでしょう。

さて、この大きな空間で、泉太郎(いずみ・たろう)の個展・公開制作「AASレジデンスプロジェクト『くじらのはらわた袋に隠れろ、ネズミ』」が、2010年1月16日(土)~1月31日(日)に行われました。

■触ることができない”映像”だからこそ

泉太郎は1976年、奈良県生まれ。2001年より、映像を使った作品を国内外で数多く制作・発表し、高い評価を得ています。東京の美術館でも、昨年東京国立近代美術館で開催された「ヴィデオを待ちながら 映像、60年代から今日へ」展や原美術館での「ウィンター・ガーデン:日本現代美術におけるマイクロポップ的想像力の展開」に参加しています。また先日森アーツセンターギャラリーで開催されたアートフェア「G-Tokyo 2010」にて、ヒロミヨシイのブースでインスタレーションをご覧になった方もいるでしょう。

泉太郎は、ビデオカメラのレンズの前に自分自身の身体を含む様々な物を置いていき、さらにそれを映し出すモニターやプロジェクターの前にも物を置いていくことで、「もの」そのものの意味や形を、手で触るように作りかえていく手法をとっています。映像の中身だけで成立する作品もありますが、インスタレーションによって画面内と画面外、あるいは周囲の状況やその場にやってきた観客そのものまでをも結んで構成要素にしてしまう作品が魅力的です。こればかりは展覧会に足を運ぶしかありません。というわけで最終日の前日に行ってきました。

■巨大なスゴロク

今回の個展の目玉といえるのが、AASの広大な空間を存分に使った巨大なスゴロク。これは、昨年夏に群馬県立近代美術館で開催されたグループ展「こども+おとな+夏の美術館 まいにち、アート!!」で最初のプランが作られ、秋の「横浜国際映像祭2009 CREAM」の野毛山動物園会場で大きく展開し、年末から今年初めに神奈川県民ホールギャラリーで行われた「日常 場違い」展でもバリエーションを加えた、泉太郎の新たなシリーズです。

泉自身がカメラを向けながらサイコロをふり、駒をうごかし、止まったマスに書かれた指令に従って、駒に加工やアクションが加えられていきます。例えば「テープ」と書かれたマスに駒が止まったらテープで巻かれ、「水」では水をかけられ、「イロ」では絵の具を塗られ、「モミモミ」では揉まれる、といった具合です。横浜国際映像祭では、このスゴロクの駒として人形や大きなお菓子袋などが使われ、撮影が終わった後にその変わり果てた姿が現場に残るという形の展示がされました。AASで開催された本展では、泉自身も時としてこのスゴロクの駒となり、期間中は毎日午後に公開制作としてこのスゴロクを実際に使った撮影がされ、新たな映像と、スゴロクの結果の展示が加えられていきました。

■笑いの先には脳味噌が!?

泉太郎の作品は、写真からもわかるように、「映像作品」と聞いて思い浮かぶようなコンピューターグラフィックスや特撮映像ではありません。映像編集にパソコンを使わず、カメラとビデオデッキで作られたシンプルな映像に写っているのは、作者自身の体や、身につけた衣類、あるいはペットボトルや文房具、手芸材料、木材、おもちゃ等、ほとんどの観客にとって見慣れたものです。ところが、一見して見慣れたものが映っているにも関わらず、それが映し出された時には、物体の意味や形が作り替えられているのです。

これを見ると、最初はわけがわからなくなります。次に、それがまるで手に負えない難解で抽象的な作品に思えたり、気持ち悪い映像にも見える瞬間が訪れます。しかし、そこを通り過ぎても、映像を映し出すモニターの周囲の風景も含めながら、ぼんやり眺めていましょう。すると、なぜか笑いがこみ上げてきて、ある瞬間に突然、映像の中の物体、そしてその物体を映している「映像」というしくみそのものまでもが、触れられそうで触れられない物体であるかのような、不思議な感覚に陥ります。こうした笑いと衝撃の先には、この時代に作品を「つくる」ことに対して謙虚で透徹したまなざしを持った作家の強い姿勢が感じられるのですが、これ以上は体験してもらうしかないでしょう。

会場にはスゴロクの他にも、普段倉庫になっているスペースなどを使い、独立した映像インスタレーションがいくつも展開されていました。まるで、展覧会場にいる自分は泉の頭蓋骨の中にいて脳味噌の映像を見ているのではないか、という錯覚に陥ったほどです。泉太郎の今後の活動から、ますます目が離せません。

作田 知樹

作田 知樹. 京都精華大学芸術学部SUAC文化政策学部非常勤講師。企業メセナ協議会プログラム・オフィサー。Arts and Law代表理事。準法曹。行為形式としての建築・コミュニティデザインに関心を持ち、アートと法、技術と人文主義、情報工学と公共哲学の交わる場である現代美術映像・メディアアートのプロジェクトで展示企画職・コーディネーターとして働く。個人とその表現を取り巻く環境について、社会的・創造的なプロジェクトにおけるフィールドワークをベースに考察する研究者でもある。2004年にArts and Lawを開始、以来、ディレクター/プログラムマネージャーとして、賛同するプロボノの弁護士・弁理士・会計士・アートマネージャーらとともに無料相談やワークショップを通じて芸術・文化関係者向けの法、契約、倫理、会計に関する正確な情報と議論の場を提供する。またクリエイティブ・コモンズ・ジャパン事務局など、情報社会の新たな個人と法・倫理・ビジネスのモデルをつくる活動に参加している。『クリエイターのためのアートマネジメント』著者。セールスフォース認定デベロッパー。/twitter:@tsakuta|@Arts_Policy facebook Google+/記事中の発言内容は所属先組織の見解を述べたものではありません。 ≫ 他の記事

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