不知火美術館・図書館本展では、日本文化の根幹を成す素材のひとつであり、約9000年の歴史を持つ漆芸(しつげい)をご紹介します。近代以前のものづくりを色濃く継承する漆芸は、時代の作り手たちによって問い直され続け、現代でも新たな表現が生みだされています。
漆作家の井川健と下條華子は、それぞれ異なる漆の形を導き出してきました。井川は、自然の造形を手がかりに、目の前にある線や面の観察と選択を重ねて、形を見出していきます。さらに漆を塗ることで、艶やかな塗膜(とまく)を纏(まと)った美しい作品を生み出します。
下條は、制作過程における予期せぬ形との出会いを大切に、複雑でおもしろみのある形を生み出します。漆、そして蒔絵(まきえ)などの加飾(かしょく)を施して完成する作品は、見る角度ごとに表情を変えます。
一方で、宙漆(そらうるし)プロジェクトは、宇宙への憧憬(しょうけい)を原点に、漆作品を成層圏へと送り出し、地球光での鑑賞に成功しました。この挑戦は、漆と宇宙を結ぶ新たな文化の可能性を切り開いています。
いずれの表現にも共有するものは、漆という素材の持つ美しさや特性への深い敬意、そして“つくること”への純粋な眼差しです。
伝統的な技法と作家の感性が交差するとき、漆は悠久(ゆうきゅう)の時間を内包しながら、なおも果てしなく広がる可能性を示しています。
無限の宇宙のような漆の奥深さを「宙」という言葉に託し、素材そのものの魅力や多彩な表現をご覧いただけますと幸いです。
まだコメントはありません