ドイツのデュッセルドルフ芸術アカデミーにてベッヒャー夫婦のもとで写真を学んだトーマス・ルフは、写真の持つ特性を追求した様々なシリーズを展開し、写真に対する既成概念への問いかけを続けてきました。以前から数学の美しさを視覚的に表現する試みのもとに数式を用いた作品を展開してきたルフは、今回のシリーズでは「フラクタル」という、縮尺を変えても同じ形が続いていく幾何学構造に着目しています。雪の結晶のように自然界に現れるその幾何学構造を、最新のソフトウェアを駆使して三次元の仮想空間において人工的に作り出しました。本作はこれまでの写真作品とは異なり、その模様を新たな支持体である工業用カーペットに刷り込むことで、カーペットの毛足による深みと柔らかな質感をもたらしました。1960年代のサイケデリック・アートを彷彿とさせる本作のシリーズは、オルダス・ハクスリーの著書『The Doors of Perception』(1954)に基づき「d.o.pe.」と名付けられています。さらにルフは、ヒエロニムス・ボスやマティアス・グリューネヴァルトのような北方ルネサンスの芸術家たちの鮮やかな色彩と不穏で幻想的な世界観を思い起こさせることで、芸術の創造力に限りはないことを示唆しています。
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