公開日:2022年3月5日

森山未來が語る現代アートへの入口。「“いま”にどういうふうにコミットするのか、どう問題提起をするかという意識が必要」。

「MEET YOUR ART」は、「アートと出会う」をコンセプトとしたアートの専門YouTubeチャンネル&オンラインショップ。2021年12月末に公開された、番組MCを務める森山未來へスペシャルインタビューの全編を特別編としてテキスト版でお届けする。

森山未來

——森山さんは現代アート、あるいはアートそのものにはこれまでどのように触れてきたのでしょうか?

もともと古典的な作品や作家は好きだったんです。僕の母が絵を描く人なんですけど、彼女の好きなクリムトやミュシャなどの作品は昔から見ていて。個人的にはパウル・クレーが好きだったり。

そんなふうに自分の好きな作家さんや作品についてはそれなりに知識があったんですけど、いわゆる現代アートの世界をガッツリ知っている、というわけではなかった。

自分の現代アートへの関心の入口だったと記憶しているのは、たしか24、5歳の頃に千葉のDIC川村記念美術館で見たバーネット・ニューマンの《アンナの光》です。《アンナの光》は、端的に言うとただ白と赤のコンポジションというミニマルな絵画作品なんですが、とにかくキャンバスが大きくて圧倒的な存在感で衝撃を受けました。そして気になったのが、「なぜこんなにシンプルな作品が《アンナの光》というタイトルなんだろう」と。その展示では、作品説明のみならず、それを描くに至るまでにニューマンの内面で起こったことを丁寧な解説テキストで読むことができて、「あ、そういうふうにしてこの作品は生まれたんだ、こんな在り方もあるんだ」と腹に落ちてきました。

バーネット・ニューマン アンナの光 1968 出典:http://www.artnet.com/artists/barnett-newman/annas-light-QRTU-n2TZu1Rlwq2mkHq7g2

——現代アートはよく「難しい」と形容されますが、そのように感じることもなく?

なかった……ですね。なんでだろう? 初めて海外で河原温さんの作品を見たときはほとんど素通りした覚えがありますが(笑)。それは往復書簡的なハガキだけが置いてあるような作品で、後々彼を知っていくなかで「なるほど、だからこういう表現なんだ」と自分なりに解釈することはできて。なので「ほとんど素通りした」と言っても、不思議と作品のイメージは記憶に残ってるんですよね。なぜこれがギャラリーに展示されているのだろう?と意味はわからなくても、存在として強く印象付けられていたんだと思います。

あとは2012、13年あたりからヨーロッパのコリオグラファーたちと仕事をする機会があって、彼らの価値観に触れたこともコンテンポラリー・アートに興味を持つ大きなきっかけだったかもしれないです。彼らはパフォーミングアーツ、たとえばダンス作品を作るとしても、ただ振り付けをして、ダンスをして、では終わらない。僕が日本では見ることのなかった様々な方法論を駆使しながら作品を完成させていくわけですが、その過程を見ていて目から鱗というか「こういう作り方もあるんだ」と。作品を追求していく目線とか、美しさに対するこだわりとか、そういうものに触れていくなかで、段々と「ああ、もっとこういうもの(現代アート)に触れてみたいな」という気持ちがフツフツと出てきたんですね。

その後2013年にはキュレーターの長谷川祐子さんに出会い、これまでコンテンポラリー・アートについて色々と教えていただいたり、一緒にお仕事をさせていただいたりしてきました。「MEET YOUR ART」の番組内でも話したのですが、個人的には長谷川さんは現代アートの師匠だと思っています。

森山未來

——YouTubeのアート専門番組「MEET YOUR ART」がスタートしてから1年になりますが、そもそも森山さんがこの番組に関わることになった動機について聞かせてください。

YouTubeの番組でアートを提供するという内容や形式云々というより、まず現代アーティストの方々のことや、最近の活動のなかで自分の周りからも聞こえていたアートワールドの仕組みのことなどを知ることができそうだな、と。

なので収録は毎回純粋に楽しませてもらっています。知りたかったことがクリアになっていくというか、古典作家ではない、自分と同じ時代に生きている作家の方と面と向かって話すことで、同時代に鮮明に感じていることを互いに共有する感覚を持てる。とにかく新鮮です。

MEET YOUR ART(ゲスト:磯村暖)より

——森山さんはご自身でもコンテンポラリー・ダンスや身体表現をされていますが、番組でアーティストと触れ合うなかで、何かご自身の表現に還元されることはありますか?

たとえばダンスパフォーマンスをやるにしても、演劇をやるでも、いわゆる舞台美術や照明、音楽、まぁすべてがそうですが、当然「いま」の人が作っているんですよね。いまの自分だったり、いまというこの環境や状況など「いま」というものにどういうふうにコミットするのか、どう問題提起をするかという意識が必要だと思うんです。

この1年は、その意識の強さのようなものにこの番組内で触れるタイミングが多いです。もっと触れたい、そういう人たちとものを作りたいという感覚がこちらもどんどん強まっている。それはすごく健全というか、必然的なことですよね。

——「MEET YOUR ART」ではアーティストのほかにコレクターオークショニアの方が登場し、ECサイトで作品販売もしています。アートをコレクションすること、実際に買ってみることについてはどう考えますか?

アーティストの生き方や考え方、ステートメントがあり、そしてそれが凝縮された作品というものがある。それを自分の手元に置いておく事によってその人の考え方、思想を引き受けるということになりますよね。作品を購入することで、背中を押してもらえるのかもしれないし、包んでもらえるのかもしれない、あるいはアゲインストすることになるのかもしれないですけど、とにかく、そういう指針になるものとして何かひとつ作品を持つ、みたいな考え方はありそうですよね。もちろんたくさん作品を収集するのもいいと思いますし、関わり方は様々だと思うんですけど。僕はそんな感じで持てたら面白いなって思いますね。

MEET YOUR ART(ゲスト:許寧)より

——今後番組内で取り組んで行きたいことはありますか?

見てくれている方々にとって現代アートやアーティストの作品に出会う良い入口になれたら、とは思いますね。出会い方によっては取っ付きづらくなるとか、そういうようなこともままあるので。

それこそ布施英利さんの講座などはモナリザやバスキアなど、著名な作品を扱いながら、アートに触れるってなんだろうということをすごくシンプルに説明してくれます。ああいうところから「なるほどね、そういうふうにアートを見ても良いんだ」みたいにつながっていくと、単純に敷居が下がり、気楽に触れられるものになって、眉間にしわ寄せてアートを鑑賞するようなものにならなくなっていきますよね。「MEET YOUR ART」という番組がきっかけでそのような空気感になっていけば良いなって思います。

MEET YOUR ART

MEET YOUR ART

MEET YOUR ARTは、 「アートと出会う」をコンセプトとしたアートの専門YouTube チャンネル&オンラインショップ。アートに触れる機会や購入体験のきっかけを提供することと、特に若手アーティストの活動支援のプラットフォームとなることを目指しています。