公開日:2021年9月7日

バスキア+ジェイ・Z+ビヨンセ、タリバン政権下のアーティスト、NFT最新状況など:週刊・世界のアートニュース

ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目ニュースをピックアップ

いま、世界のアート界では何が起こっているのか? ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目のニュースをピックアップ。今回は8月17日〜27日に世界のアート系メディアで紹介されたニュースを「アートへのコロナの影響」「NFTの状況アップデート」「できごと」「おすすめの読み物、ビデオ」の4項目で紹介する。

ビヨンセとジェイ・Zを起用したティファニーのキャンペーン「ABOUT LOVE」 Photo: Mason Poole

アートへのコロナの影響

◎美術館入場にはワクチン接種証明が必要
NY市では、8月16日からレストラン内での食事やジムの利用などにワクチン接種証明が必要になったが、美術館やギャラリーなど文化施設への入場にも必要に。9月13日以降は罰則も導入される。12歳以下の子どもはワクチン接種した大人と一緒に行くことが可能。NY市のガイドラインによると、NY州外や外国でのワクチン接種記録でも大丈夫だが、記録には、氏名、生年月日、ワクチン名称、接種日、接種場所などが必要とのこと。言語についての情報はないが、実務上英語以外の記録での運用は厳しいと思われる。
https://hyperallergic.com/670479/youll-need-to-be-vaccinated-to-visit-nyc-museums-and-galleries/

◎コロナ禍での作品輸送の難しさ
DCのナショナルギャラリーで昨年開催予定であった17世紀ジェノヴァ絵画の大規模展覧会が、1年延期され、さらにキャンセルに。イタリアから輸送される絵画の4分の1ににビザ手続きが必要なことや、国際輸送網が混乱している状況下では、一旦米国に到着してもコロナ次第では返還も大変で、2022年に予定されているローマでの巡回展に影響しかねないことから。
https://www.artnews.com/art-news/news/national-gallery-of-art-cancels-genoese-art-blockbuster-1234602005/

◎たった2週間で話題展が終了に
2018年にグッゲンハイム美術館の大回顧展で大きな話題になったヒルマ・アフ・クリント。オーストラリアのニューサウスウェールズ州立美術館で回顧展が始まったばかりだが、コロナのロックダウンのためたった2週間で終了。大半の作品は次の展覧会のためニュージーランドに輸送されるためロックダウン後の再開はできない。
https://www.smh.com.au/culture/art-and-design/the-breathtaking-art-exhibition-most-of-australia-will-never-get-to-see-20210824-p58lk3.html

NFTの状況アップデート

◎Visaのお墨付きNFT?
クレジットカード会社のVisaがCryptoPunksのNFTの一つを1600万円あまりで購入したことで、大企業のお墨付きと捉えられ、CryptPunks「市場」がさらに盛り上がっている。Visaとしては超初期のデジタルアート市場ついて実地で学ぶため購入したとのこと。
https://news.artnet.com/market/visa-purchased-first-cryptopunk-kickstarting-record-run-sales-popular-series-nfts-2002289

◎女性のなりすましで炎上
女性アバターのNFTプロジェクトFame Lady Squadは3人の女性クリエイターによるものとされていたが、実は作者達が3人の男性とバレて炎上。人気を博していたNFTは投げ売られ、価格が暴落。作者達が謝罪の上、プロジェクトのコントラクト全体を別の女性クリエイターに譲渡した。
https://www.insider.com/nft-fame-lady-squad-all-female-women-created-fls-men-2021-8

◎NFTマーケットへの違和感
暗号資産界の有名人ジャスティン・サン(Justin Sun)が、目が光っている石のNFT作品を5000万円以上で最近購入した話からはじめて、現状のNFTマーケットをゲームストップ株や過去のバブルと比較しながら、NFTマーケットに対する違和感のようなものをすっきりと言語化してくれているオピニオン記事。
https://www.bloomberg.com/opinion/articles/2021-08-24/nft-500-000-for-a-picture-of-a-rock-says-where-the-cycle-is-at?sref=13kF1E9p

◎ダミアン・ハーストのNFTプロジェクト
ダミアン・ハーストのNFTプロジェクト「The Currency」は、とても似ているがそれぞれ絵柄の異なる1万枚ものドットペインティングをNFTとペアにしてそれぞれ2000ドル(約22万円)で販売し、1年後に所有者がNFTか実物かを選び、選ばれなかった方(実物かNFT)は破棄されるというプロジェクト。販売後2ヶ月たったが、のべ1571作品がすでにセカンダリーで取引され、現状の最低価格がプライマリー価格の10倍以上の2万8500ドル(約300万円)。1万作品の中にもタイトルやスポットの密度によって「レア」なものがあるそうで、それらは値段が高くなっているという。
https://news.artnet.com/market/damien-hirst-nft-update-2002582

◎ハーストと前イングランド銀行総裁が語る
こちらは「The Currency」のいわばプロモーションビデオだが、なんとダミアン・ハースト自身の対談相手に、前イングランド銀行総裁を引っ張ってきて、今回のプロジェクトと金本位制を比較したり、アートと貨幣について話したりしていて、すごく良くできている。
https://www.youtube.com/watch?v=1v5VT-Jc2VY

できごと

◎バイデン大統領の息子が画家に転身
バイデン大統領の息子の1人でスキャンダルの多いハンター・バイデンは弁護士で企業の役員などをしていたが、近年画家に転向。NYのほぼ無名の画廊が彼の絵画を1枚約5000万円で販売しようとしているが、大統領への影響行使として使われると批判が噴出。ホワイトハウスは、画廊が仲介に入り、購入者の氏名をハンター・バイデン本人にも、政府にも秘匿するという条件を策定。また、もし購入者がそのことを公にした場合、政府はその購入者と仕事をすることを認めないとしている。
https://www.nytimes.com/2021/08/13/arts/design/hunter-biden-art-white-house.html

◎タリバン政権下でアーティストたちは
タリバン政権の支配下に入ったアフガニスタンで身の危険を感じて多くのアーティスト達がスタジオをたたんで、作品を隠したり、破壊したりせざるをえない状況に追い込まれているという。またウェブ上の作品も削除しているとのこと。逆に抵抗のために制作を続けている作家もいるとのこと。
https://www.dw.com/en/afghan-artists-react-to-the-taliban-takeover/a-58887436

◎ダッシュ・スノウのドキュメンタリー
2000年代NYのダウンタウンアートシーンのスターで2009年に薬物過剰摂取で死去したダッシュ・スノウのドキュメンタリーが公開された。有名コレクターであるメニル家に生まれながら(た故に?)バッドボーイであり続けた彼の人生を振り返りながらの映画の批評記事。
https://www.artnews.com/art-news/artists/dash-snow-moments-like-this-never-last-review-1234601985/

◎Frieze Londonの参加ギャラリーが発表へ
去年はキャンセルされたが、今年は10月に開催予定のFrieze Londonに出展する276画廊が発表された。世界各地の画廊が参加するが、日本からはTaka Ishii gallery、Taro Nasu、そしてマスター部門に思文閣の名前が。
https://www.artnews.com/art-news/market/frieze-london-frieze-masters-2021-exhibitor-lists-1234601939/

◎バスキア+ジェイ・Z+ビヨンセのキャンペーン
ティファニーの新しいキャンペーンでビヨンセとジェイ・Zがバスキア絵画の前でポーズしたものがスタート。バスキアが唯一ティファニーブルーを使った絵画で、イタリアの個人コレクターから近年ティファニーが購入。ビヨンセは「ティファニーで朝食を」のオードリー・ヘップバーン、ジェイ・Zはバスキアが1985年にNew York Magazineの表紙を飾った際の衣装にインスピレーションをうけた装いになっている。
https://www.artnews.com/art-news/news/beyonce-jay-z-tiffany-basquiat-1234602125/

◎フェイク作品をギャラリー内で製造
マンハッタンのミッドタウンでギャラリーを営業していたギャラリストが数百点ものフェイクのアンティークをなんとギャラリー内で製造し、販売していたとして逮捕された。アイオワの美術館でのロゼッタストーンに関する展覧会にもこのギャラリーからのフェイク作品が多数出ていることがわかり、中止に。
https://news.artnet.com/art-world/manhattan-dealer-busted-selling-hundreds-fake-cookie-cutter-antiquities-says-manhattan-d-2002850

◎没入展展覧会は金脈か
ゴッホのイマーシブ(没入)展覧会はなんとアメリカだけでも5つの会社が50の場所でしのぎを削っているそうだが、次はモネだそう。3つの別の会社がモネの没入展覧会をアメリカやヨーロッパ、中国でスタートさせるそう。有名作家の著作権切れ没入展はよっぽど儲かるのだろう。
https://news.artnet.com/art-world/immersive-claude-monet-1995318

おすすめの読み物、ビデオ

◎太った身体とフェミニズム
文筆家でアートコレクターのロクサーヌ・ゲイと画家のジェニー・サヴィルが、アートにおける(避けられてきた)太った身体とフェミニズムについて対談している。
https://www.artnews.com/art-in-america/interviews/fatness-feminism-representation-1234601645/

◎ワンゲチ・ムトゥのインタビュービデオ
昨年にメトロポリタン美術館のファサードに彫刻作品をコミッションされたワンゲチ・ムトゥのインタビュービデオ。自身が出身のケニアのナイロビにある広々としたスタジオでの撮影で彼女の作品のバックボーンのようなものがよく伝わってくる。
https://art21.org/watch/extended-play/wangechi-mutu-between-the-earth-and-the-sky-short/

Kosuke Fujitaka

Kosuke Fujitaka

1978年大阪生まれ。東京大学経済学部卒業。2004年、Tokyo Art Beatを共同設立。08年より拠点をニューヨークに移し、NY Art Beatを設立。アートに関する執筆、コーディネート、アドバイスなども行っている。