お金と価値、NFTやDAOについて考えた5日間。シビック・クリエイティブ・ベース東京(CCBT)が市民参加型プログラムで仕掛ける創造性へのアプローチ

アートとデジタルテクノロジーを通じて人々の創造性を社会に発揮するための活動拠点、シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]。2023年8月26日から30日には、「ブロックチェーンで新しいルールをつくる」をテーマに「未来提案型キャンプ(Future Ideations Camp)」が開催された。

キャンプ参加者と講師陣、CCBTスタッフ 撮影:村松正博

ラボ、スタジオ等のスペースを備えるシビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT](以下、CCBT)は、ワークショップやショーケースなどの開催を通じて、東京からイノベーションを生み出す原動力となることを目指して2022年にオープンした(公益財団法人東京都歴史文化財団が運営)。5日間の短期集中ワークショップ「未来提案型キャンプ」では、アーティストやデザイナー、エンジニア、学生など、選考された23名が参加し、「お金」「NFT(非代替性トークン)」「DAO(分散型自立組織)」について考察し、最終的に5つのグループに分かれて協働制作を行い成果発表が行われた。

キャンプの狙いはどのようなものだったのか? CCBTのテクニカル・ディレクターで、プログラム・ディレクションを担当した伊藤隆之と、プログラム・ディレクターを務めたアーティストでジェネラティブアート振興財団代表理事の高尾俊介に話を聞いた。

左から伊藤隆之、高尾俊介 撮影:村松正博

「お金」を考えることからブロックチェーンを始める

——「ブロックチェーンで新しいルールをつくる」をテーマに、5日間のワークショップを実施した経緯を聞かせてください。

伊藤隆之(以下、伊藤) ブロックチェーンを中心としたテクノロジーというのは、芸術などの表現分野だけではなく、行政や企業なども含むすべての人の行動に影響を与えるような仕組みを生み出しはじめています。そこでCCBTでは、レクチャーやワークショップを通じてブロックチェーンについて学び、その理解を深める機会を作りたいと考えました。

高尾俊介(以下、高尾) ブロックチェーン自体が社会のなかで動き始めているいっぽう、私たちの多くがあまり深くは理解できておらず、関与もできていないという感覚もあります。複雑さの一つ一つを理解するために、ブロックチェーンに流通する暗号資産の前提として、初日には「お金とはそもそもどのようなものか」「どういった歴史的な経緯を経て価値を持つようになったか」ということから考えるレクチャーを実施しました。

伊藤 キャンプの初日は、ミュージアムエデュケーターの会田大也さんと株式会社TART代表取締役の高瀬俊明さんを講師に迎えました。高瀬さんのワークショップでは実際に参加者が自分でコードを書き、オリジナルの通貨を作るのですが、ブロックチェーンの技術を用いて通貨的な機能を持つものを作るところは割とあっさりできてしまって、それよりも「お金ってなんですか」という高瀬さんから発せられた問いについて、みんなで考える時間が長くとられていました。会田さんには、このプログラムについて相談したときに、「ブロックチェーンを扱う前段階として、そもそものお金の『価値』について一緒に考えてみる場を作りたい」相談をしていたこともあって、初日は概念の理解にフォーカスを当てるプログラム構成になりました。

キャンプ1日目。会田大也によるレクチャー「お金の価値」 撮影:村松正博

——5日間はどのように構成されたのでしょうか。

高尾 初日に「お金・通貨」に関するレクチャーとワークショップがあって、2日目が「NFT」、3日目が「DAO」というテーマ設定でした。2〜3時間のレクチャーと「ハンズオン」と呼ばれる小さなワークショップを行い、それとは別に、専門家による基調講演もあったので、毎日午前11時から20時か21時までのスケジュールでした。

「NFT」をテーマとする2日目は、NFTとはどういうものなのか、ふたつの観点からレクチャーしてもらいました。ジェネラティブアーティストの田中薫さんには、彼女のデジタルアート作品について、NFTの登場以降、国内外での大型ディスプレイでの作品発表の機会が増えたこと、SNSがそのきっかけとして機能していることなど、実際の展示事例をもとに紹介してもらいました。

キャンプ2日目。田中薫によるレクチャー「アート活動とNFT」 撮影:村松正博

もうひとりの講師、0xhaiku(ゼロエックスハイク)さんは、スマートコントラクトをメディウムとして作品発表をされるアーティストです。ブロックチェーンを用いて作品を制作することで、関係性そのものを作品に取り込めるというような可能性について話を聞きました。レクチャーのパートでは、作品を通じた事例を聞きながらインプットし、後半のハンズオンでは、ブロックチェーンエンジニアのwildmouse(ワイルドマウス)さんが登場し、実際にみんなでSolidity(ソリディティ)を書いてスマートコントラクトで完結する作品を作ってみようという取り組みを行いました。

キャンプ2日目。wildmouse(ワイルドマウス)がプログラムコードをチェックする様子 撮影:村松正博

——「お金」や「価値」について考えることから始まり、「NFT」を通してマーケットや流通について考え、3日目が「DAO」となると、そこで資本主義経済や民主主義について話が広がり、まさにデジタルで成立する社会の仕組みを考える企画だと想像できます。

伊藤 そうですね。DAO自体は仕組みですけど、VolumeDAOのレクチャーとワークショップをきっかけに民主主義について議論が深められた印象があります。

20代から60代まで、参加者の多様性が生んだクリエイティビティ

高尾 そもそも「DAO」はDecentralized Autonomous Organizationの略ですが、非中央集権的で自律的な集団ということで透明性は強調されつつも、個々のDAOのメンバー構成や実際にどのように運営されているのか、外部からは見えづらいところがあります。今回は、アーティストやキュレーター、コレクターなど、複数の属性を持つ方々が集まった台湾のVolume DAOというDAOのメンバー4人に、講師として参加してもらいました。2日目の夜に基調講演があり、3日目には、たとえば集団としての意思決定のために用いる投票ツールや、集団で暗号資産を管理するためのマルチシグウォレットなどを紹介してくれました。ハンズオンのパートでは、そうしたデジタルツールの機能を使い、私たちの身の回りにある課題をどうやって解決できるか、グループごとに検討しました。

キャンプ3日目。ハンズオンに取り組む参加者とVolume DAO 撮影:村松正博

伊藤 3日間の流れのなかで、社会にある課題を改めて見直す場にもなりましたし、それらを実践的に今回学んだ仕組みを使って解決できるかということまで内容が広がりました。そして3日目の夜には「ワールドカフェ」を行い、参加者全員がいくつかのテーマに分けられたテーブルを移動しながら自分のアイデアや考えを共有しました。そのあとグループ分けを行い、最後の二日間のグループワークで取り組む内容が確定していきました

——どのようなテーマでグループ分けが行われたのでしょうか。

高尾 ワールドカフェで参加者それぞれがトピックを自由に出していったのですが、そこで出てきたトピックに対して別の参加者が反応する、というようなかたちで最終的に5つのグループが形成されました。テーマはそれぞれ、「アート表現」「社会・生活」「仕事」「コミュニケーション・コミュニティ」「マーケット」で、これらをもとにアイデアをブラッシュアップし成果発表を行いました。

キャンプ3日目。グループに分かれ議論を行う参加者たち 撮影:村松正博

——4日目と5日目の午前中でグループワークが行われ、5日目の午後に発表されたそうですが、特設サイトの成果発表を拝見したところ、知り合ったばかりの人たちのグループでそんな短期間に作られたことが信じられないような完成度だと感じました。
https://impartial-flea-6e9.notion.site/setup-presentation-e67eb6b0455640c68ecc10064ee78af7

高尾 本当にクリエイティビティに富んだ成果発表が行われました。うまくいった要因はいくつかあると思いますが、最も重要だったのは参加者の多様性が機能したことでした。参加者の年齢も20代から60代まで、アーティスト活動をする方、ブロックチェーンに関する事業展開をする方、あるいは町づくりに携わる方、知的財産に関する領域を専門とする方など、バックグラウンドも様々です。その多様性から適度なノイズが生まれ、互いの意見を尊重し合いながらも、身内の狭いコミュニティだけでは生まれないような発想がかたちになったのだと感じています。

キャンプ4日目。グループワークの様子 撮影:村松正博

伊藤 運営した私たちも、3日間のインプットと実質1日半の作業時間で何ができるか、不安はありました。グループで話し合ったテーマや課題についての思考の過程がホワイトボードに書かれているようなプレゼンテーションばかりになってしまうのではないかと覚悟もしていたのですが、蓋を開けてみたらものすごい完成度の提案ばかりで驚かされました。社会人経験の豊かな方も多かったですし、みなさん、モチベーションが非常に高かったですね。

キャンプ5日目。成果発表の様子 撮影:村松正博

長い目で、創造性を持って社会課題と向き合う場としてのCCBT

——5テーマともにプロジェクトの内容がとても具体的で、少しのブラッシュアップで実用化できそうなレベルで実装されていますが、おふたりがとくに印象に残ったプロジェクトはどれですか。

伊藤 どのプロジェクトも面白いテーマで、インターフェースも出来上がっていて完成度が高かったのですが、いまパッと思い浮かんだのは《IkariNFT》というプロジェクトです。ひとつのテーマに対して参加者がNFTで投票し、それに応じて画面の風船が膨らみ、行列が生まれていく様子が実感できるようなプラットフォームなのですが、NFTをうまく活用することで、SNSに氾濫しているような社会が抱える怒りを表明するデモを、うまく実社会に影響する形で実現できるのではないかと思わせてくれるプロジェクトでした。

《IkariNFT》のキャプチャ。メンバーは呉易平、大久保敏之、梶野健太郎、寺江圭一朗、津間啓語

高尾 怒りを表現する場が《IkariNFT》だとしたら、それとは逆に、SNSに安心できる場所を求める思いが、静かなコミュニケーションで実現できるようなプラットフォームが、《conVerse》というプロジェクトとして発表されたのが個人的に印象的でした。

私はジェネラティブアートというコードベースの表現に取り組んでいますが、それは自分のパーソナルな表現で、コンピューターとの対話を作品としてアウトプットしているようなものです。しかし《conVerse》や《IkariNFT》をはじめとする今回の成果発表は、人と人との関わりを材料にして、新しいつながりを生み出そうというアプローチからプロジェクトが形を帯びています。ジェネラティブアートの作品展開の可能性を改めて考えられたことも今回大きかったですね。

《conVerse》のキャプチャ。メンバーはava、坂村空介、Samuel YAN、庄野祐輔、田島琢巳、來迦結子

——今回のキャンプは実社会とメタバースとの接続を実感させるプロジェクトだったと思います。改めて、CCBTのようなデジタルクリエイティブの領域に行政が取り組む意義をどのように感じられましたか。

伊藤 営利目的ではなく、社会課題を出し合い、フラットな状態で技術や、それを用いたクリエイティビティに向き合える場は、やはり公共だからこそ可能なのではないでしょうか。できるだけ長い目で、創造性を持って社会課題と向き合う場を運営していくことが大事ではないかと思っています。

高尾 NFTやブロックチェーンというと、ある種の収益性や投機性に対する期待が少なからずあって、起業して、お金を集めて、プロジェクトを回して、という風に即時的な成果を目指すイメージがありますが、そうではないブロックチェーンの永続性や透明性にフォーカスした活用可能性を今回は提示できた実感があります。今回の「未来提案型キャンプ」は参加者が限定されていますが、成果発表は広く公開されていますし、CCBTでは幅広く市民が参加できるプログラムが実施されています。このような取り組みは、日本の社会が抱える課題にどのように向き合えるか、様々な地域に展開できるはずです。5日間を通してブロックチェーンの可能性を感じることができましたし、作品発表に留まらない社会とのつながりを考えるいい機会になったのも、ここが狭い目的に縛られない公共の場だったからだと感じています。

キャンプ参加者と講師陣、CCBTスタッフ 撮影:村松正博

中島良平

中島良平

なかじま・りょうへい ライター。大学ではフランス文学を専攻し、美学校で写真工房を受講。アートやデザインをはじめ、会社経営から地方創生まであらゆる分野のクリエイションの取材に携わる。