最終更新:2007年6月19日

Design Events in April, REVIEW

4月はクオリティの高いデザインイベントが多かった。なかでもクリエイションギャラリーG8の「生命のうた 永井一正版画展」、今年は丸ビルに場所を移して開催された「竹尾ペーパーショウ」、そして青山スパイラルで行われた日本の科学、クリエイション、テクノロジー、感覚を横断する新しい試みの展覧会「TOKYO FIBER SENSEWARE」はそれぞれ「デザイン」という想像的な翻訳を通して発表される、今の「日本」をみる知的な展覧会だった。

このTABlogでは開催期間が短かったために訪れることができなかったみなさんに、これらの展覧会の内容をご紹介しようと思う。

生命のうた 永井一正版画展@クリエイションギャラリーG8

ただの紙の上の線の集まりが、どうして思考を停止せざるをえないくらい観る者を圧倒することができるのか。永井氏の作品は強烈な個性とイマジネーションで観る者を力づくで惹きつける。よけいな装飾的言葉も、理解しようとして頭がひねりだそうとする一切の知識も拒絶する、ただそのままを認めざるをえない絶対的な存在感。そんな作品を生み出す永井一正氏だが自身を作家とは呼ぶことはなく、一貫して「デザイナー」であると言う。永井氏にとってデザインとは、デザイナーとは何なのだろうか。

生命のうた」展のフライヤーより。近くでみてみるとどれだけ緻密でかつ繊細な線が集まって一つの形をとっているかが思い知らされる。永井氏の作品をみていると、どれも技法をうねりながら巻き込んで、そこに浮かびあがってくるゆるぎない思想が表出しているように思えてならない。

この展覧会に関連したトークショーで永井氏はきっぱりと「デザインとは自然の摂理を汲み上げて形づくる行為」と語った。なぜなら人類のつくってきた文明と文化は自然の摂理の発見と学びの歴史であるからだという。

素晴らしい言葉だと感じ入ったのは、デザイナーという個人の個性と社会性との関係についての質問への答えである。永井氏ははっきりと「自然の一部である「自分」に向かって深く深く降り、自分を120%だせれば、それは「社会」とイコールになる」と語った。それは、自分勝手な表現行為で楽にお金を得ている、と言われることに罪悪感を感じるデザイナーが、常に免罪符のように「社会性」を中途半端に持ち出すことに対して冷や水をあびせるような言葉である。そうそう、自分のイマジネーションを真摯に解放し、伝えようとすることは健全な行為なのだ!と私は強くうなずいていた。

今の日本のデザインに感じることは?の質問に「人間の奥底に眠る、清らかな品格が足りない」と答えた永井氏。自然、生命、真摯、品格、そんな言葉がデザインを語ることで満ちていくことに、私は永井氏の高貴な精神性を感じ、その厳しく強い清らかさにひとつの「日本の美に対する意識」を感じた。

近作のエッチング作品と、それにあわせた示唆的な言葉で構成された「生命のうた」作品集。ズバッと本質をつく言葉のすばらしさにも圧倒される。

TAKEO PAPER SHOW 2007 “Fine Paper” @丸ビル ホール&コンファレンススクエア

「竹尾」という会社は一般的にはなじみの薄い会社だろうが、例えば新刊書籍、ステーショナリーショップでみつけたレターセットやカード、趣向をこらしたDMなど、私たちが身近に手にする、あのちょっとすてきな紙をデザイナーに紹介し、印刷会社に供給したり、海外の珍しい用紙を輸入したり、ということをやっている実はけっこうすごい洋紙の卸問屋なのである。

紙の梱包を重ねてできている作品台。さすが紙屋!

TAKEO PAPER SHOWとは、つまり竹尾の新作用紙発表会なのだが、この展覧会のディレクションを、紙に最も頻繁に接するグラフィックデザイナーの中でもトップクラスのデザイナー・アートディレクターが担当し、毎年かなり趣向をこらした展覧会を催すので、今ではPAPER SHOWをみると紙のトレンドだけでなく、どんなデザイナーが現在注目されているかが分かる、という業界では曰くのある展覧会でもあるのだ。

今年のアートディレクションは古平正義、平林奈緒美、水野学という3人の若手注目株のデザイナーが担当し、会場の丸ビル及び丸の内界隈の商業施設と国内外のデザイナーとタックルを組み、新製品の用紙のプロモーションを行った。

パルプと古紙から生まれた環境にやさしい紙を使用してつくったバッジ。アーティスト:ストーム・トーガソン、ショップ:ビームス ハウス

多色を誇る用紙の特徴を生かしたブックカバー。アーティスト:ポール・デイビス、ショップ:青山ブックセンター丸ビル店

独特なマット感のある用紙を使用してデザインされた紙のチェス。アーティスト:片山正通、ショップ:ザ・コンランショップ 丸の内店

ユニークで優雅なギフトボックス。中のカードはきめ細かく上品に光る用紙を使用。アーティスト:中川清美:パンソー丸の内店

私の興味をひいたのは、普段は大人しい(のであろう)竹尾の営業マンたちが、担当の新製品(用紙)の台の前に付いて、かなり日本人離れしたウィットにとんだ説明をしてくれたところ。そして、新製品を使用した凝ったペーパープロダクツが、協賛の丸の内界隈のショップで、期間中買い物などをすると手に入るところだ。

紙についてのご質問にはどんなことでもおこたえできる、のが竹尾の社員です。

紙についてこれだけの凝りに凝ったイベントができるとは、やはり「紙好きの国日本」ならではと思うのだ。そういう私ももちろん紙好きで、新製品の紙サンプルはしっかりいただいて参りました。(笑)

TOKYO FIBER ’07 SENSEWARE @青山スパイラルガーデン&ホール

TOKYO FIBER展は日本の繊維を紹介する展覧会、ではあるが、そう簡単に言ってしまえない多くの驚きと新しいクリエイションへの示唆にとんだイベントだった。繊維は主に生地として、主にファッションのジャンルでなじみある素材と思いがちだが、この展覧会ではタイトルに明らかなように、より「素材」としての繊維の可能性を「科学的」「触覚的」「視覚的」「立体的」な視点で切り取った、様々なクリエイティブのアイデアが日本を代表するデザイナー、建築家、アーティスト、メーカーから集合した。

驚かされるのはやはりその「繊維」の多様性。会場にあった繊維サンプルをみていると、とかくその視覚面で、色なり、表面のテクスチャーなりをみてしまいがちだが、光をあてれば蝉の羽のように透けて光る美しい繊維もあれば、熱によって変色する繊維もあり、水をおとせば、その水滴をたまのようにはじく性質を知るにつけ、繊維はあきらかに紙でも、プラスチックでもない、ひとつの「素材」であることを思い知らされる。

会場で受取れる生地サンプル。裏面にはそれぞれのサンプルの原料、素材の特徴、製造業者のコンタクトが記されており、まさに美しく、優秀なサンプルとなっている。

驚くべきは、これらの繊維がすべて日本の製品であること。こんなにいろいろなハイテク繊維が日本のどこにあったのか!と灯台下暗しの気分で興奮しながら繊維サンプルの情報を集めた来場者も多かったことだろう。こんな繊細なところで「日本のテクノロジー」が美的に発展していたのか、と嬉しい高揚に満ちた展覧会だった。

美しい水滴が超撥水加工の生地をとおして文字になる。

シンプルな驚きの背景にはこんな複雑な装置が頑張っていたのだ、、、。

AD

Chihiro Murakami

Chihiro Murakami

Visual Communication Designer 武蔵野美術大学卒業後、GKグラフィックス、日本デザインセンターを経て2002年渡英。ロンドン大学Goldsmithsでディプロマ、University of the Arts, Central Saint MartinsでMAを取得。2006年<a href="http://www.birdsdesign.com">Birds Design</a>を設立。グラフィックデザイナーとしてのキャリアとコミュニケーション力を生かし、国内外のクリエイターとの共同プロジェクトに参加する他、デザイナーならではの視点を切り口とした執筆活動、デザイン企画などを行っている。

AD

AD