公開日:2026年4月20日

間奏と移行において。「ディルイーヤ現代美術ビエンナーレ2026」レビュー(評:長谷川祐子)

サウジアラビアのディルイーヤで「ディルイーヤ現代美術ビエンナーレ2026」が1月30日から5月2日まで開催されている。キュレーター/美術批評の長谷川祐子が本展をレビューする(編集:灰咲光那[編集部])

テオ・メルシエ 2026 House of Eternity Photo by Alessandro Brasile, courtesy of the Diriyah Biennale Foundation.

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ソニックなキュレーションを目指して

今回3回目となる「ディルイーヤ現代美術ビエンナーレ2026(Diriyah Contemporary Art Biennale)」は、過去2回においてアメリカ人で北京拠点のフィリップ・トナリとドイツ人でシンガポール拠点のウテメタバウアーというクロスカルチュラルの西洋人がデイレクターを務めたが、今回ははじめて南・西アジア出身者が担当した。ノラ・ラジアンサビーフ・アフメド、ふたりの芸術監督のもと、専門性の異なる4人のキュレーターが協働した。

「ディルイーヤ現代美術ビエンナーレ2026」アーティスティックディレクター 左:ノラ・ラジアン 右:サビーフ・アフメド Photo courtesy of the Diriyah Biennale Foundation

本展は世界を多数の「行進(Procession)」ととらえ、行進がこの地域において関係と生み出してきたことに触れ、「風の動きや交易、移住、追放の流れは、物語、歌、言語の担い手であり、ラジャズのようなリズムや詩形を生み出してきた」としながら、行列という観点から絶え間ない変動の状態のなかにあるつながりと連続性を通して、激しい運動と変化のなかに世界を再考することを提案する。

アフメドはアラブ世界にとくに顕著である視覚芸術、音楽、詩のあいだの相乗効果を活用することで、人々のレジリエンスを増幅させ、希望を育む場を作ることを目指している。しばしば分断的な結果に陥りがちな共同キュレーションの問題を避けるため、本ビエンナーレは地域を分散させ、リサーチの旅を減らし、キュレーターたちの推薦する作家の合議を通して、複数のテーマ(ムーブメント[以下、運動と記す]と呼ばれる)に分類していく過程をとった。

モハメド・アルハムダン(7amdan) Procession "Folding the Tents" 2026 Photo courtesy of the Diriyah Biennale Foundation

キュラトリアルの方法として、「ソニックなキュレーション」が目指された。「ソニックにキュレーションするとは、関係的にキュレーションすることであり、重なりあうテンポ、シンコペーション、そして中断を許容することであ」り、異なるものが共存するポリフォニー的な共鳴の場の創出である。本展は6つの運動からなる振り付けとして構成された。最初はワデイ・ハニーファで実施された行進『テントをたたんで』であり、ベドウインの伝統を継承しつつも現代的なトラックの列と音楽と詩によって実施された。続いてはホールごとに4つの運動、「分断されたコレオグラフィー」「歌の広間」「集合的観察」「エコーの森」に分かれ、最後にくるのが、会期中展開される音楽と詩の朗読の一連のライブパフォーマンスである。

ナンシー・ムニ Solћ 2023:2026 Photo by Alessandro Brasile, courtesy of the Diriyah Biennale Foundation.

「ソニックな」キュレーション、個ではなく集合、結果でなくプロセス、モニュメンタルなものでなく微細なものへといったベクトルは、行進などのパフォーマンスでは実現しやすい。だが現実の展示空間においては、ある種の雰囲気を作りだすことはできるが、しばしば離散的で曖昧になり、フォームやコンテンツがとらえ難くなってしまうという危険を孕んでいる。これに対して多様性と差異にひとつのまとまりを与えていく方法としてとられたのが、イタリアのデザイナー、フォルマファンタズマによる会場デザインであった。キュレーターとしても活躍する彼らはヨーロッパの自然史、民俗学博物館などでキュレーションと会場構成を担当している。映像、テキスト、オブジェを視覚、記号、触覚のバランスで配置していくそのスマートさと総合的な美学で高い評価を受けている。会場には彼らがデザインした台座や壁、プラットフォームなどがホールごとに異なった色彩で構成されており、それぞれに統一感を与え、強い存在感を放っていた。このような展覧会において作品間の関係、意味と物理的な関係のマップは重要になる。コンスタレーションが成功している部分と唐突な分断の部分が混在していたが、いたずらに作品が混在近接することなく観客にとっては極めて鑑賞しやすいレイアウトになっていたと言える。

テオ・メルシエ 2026 House of Eternity Photo by Alessandro Brasile, courtesy of the Diriyah Biennale Foundation.
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