公開日:2024年3月6日

【新発見】伊藤若冲の絵巻がお披露目! 京都・福田美術館が公開した《果蔬図巻(かそずかん)》をいち早く見た

若冲の絵巻はこれで2例目。野菜を描いた絵巻《果蔬図巻(かそずかん)》が新発見。

伊藤若冲 果蔬図巻(かそずかん、部分) 1791 福田美術館蔵

若冲の知られざる作品がお披露目

各地で展覧会の開催が引きもきらない人気画家、伊藤若冲(1716〜1800)。これまで多くの作品が紹介されてきたが、知られざる作品は、まだあった。今回、発見されたのは、絹本彩色の絵巻。現存する若冲の絵巻としては、佐野市立吉澤記念美術館所蔵の《菜蟲譜》(重要文化財)があるが、今回の発見で、若冲の絵巻は2例目となった。

伊藤若冲《果蔬図巻》。描かれている野菜や果物の大部分が佐野市立吉澤記念美術館所蔵の《菜蟲譜》と共通するが、今作には虫は登場しない 撮影:沢田眉香子

絵巻を入手したのは、今年開館から5年を迎える福田美術館だ。《果蔬図巻(かそずかん)》と名付けられ、3月5日に報道関係者に披露された。

絵巻は、絹本着色の縦30.5cm、横277.5cmの大作。菊の花から始まり、ウド、クワイ、梨、ナスなど、40種類の花、野菜と果物が、季節に関わらない順番で描かれている。ランダムに、様々な角度に配置された野菜たちからにじみ出る軽快な雰囲気、そして色彩の鮮やかさ。とくにグラデーションの美しさには、保存の良さが感じられる。

グラデーションが美しい 撮影:沢田眉香子
福田美術館学芸課長の岡田秀之。記者発表にて 撮影:沢田眉香子

同館学芸課長の岡田秀之は、この作品について「昨年8月に、ヨーロッパの個人コレクターの所蔵だったものを、大阪の美術商を通して入手しました。これまでの記録にはない作品でしたが、絵に若冲の署名『米斗翁行年七十六歳画』と『若冲居士』の印があり、佐野市立吉澤記念美術館の《菜蟲譜》と筆法が似ていること、跋文を寄せているのが、梅荘顕常(若冲をサポートした禅僧、大典)で、その筆跡も同じであることが、真筆と認める決め手になりました」と語る。

伊藤若冲は、江戸期18世紀の京都で人気を博した画家だが、現在の人気につながる再評価のきっかけとなったのが、辻惟雄(つじ・のぶお)の著作『奇想の系譜』(1970)だった。今回の若冲の絵巻は、その辻氏をして「これは大物が出ましたね」と言わしめる大発見となった。辻氏はさらに「色の対比をきちんと考えた彩色が興味深い」と、この絵巻を評している。

伊藤若冲《果蔬図巻》 撮影:沢田眉香子

よく知られているように、伊藤若冲は、錦市場の青物問屋の家に生まれ、絵は独学だった。そのせいか、若冲にとって野菜は特別な画題で、様々な趣向の野菜の絵を描いた。国宝指定されている《果蔬涅槃図》(京都国立博物館蔵)は、釈迦の入滅を描く涅槃図を、果蔬(野菜と果物)によって表現した。

この絵巻《果蔬図巻(かそずかん)》も、《菜蟲譜》と同じく、野菜のモチーフを描いていて、同様に生き生きして見事であるが、構図は気の向くままという感じもあり、初々しい。《菜蟲譜》の予行というわけではないだろうが、よりリラックスして描かれた作品という印象を与える。

福田美術館は、2019年に京都の景勝地、嵐山に開館。江戸時代から近代にかけての日本画家の作品、約2000点を所有する。なかでも充実するのは、京都ゆかりの画家の作品だ。若冲の作品は、2020年の若冲誕生〜葛藤の向こうがわ〜」展で披露された、最初期の作品《蕪に双鶏図》(18世紀)、12枚からなる《群鶏図押絵貼屏風》(1797)などを所蔵している。作品の収集にも力を入れ、先ごろ、52年ぶりに再発見された長沢芦雪の《大黒天図》も取得、公開された。

巻末に大典禅師の跋文(ばつぶん、あとがきのようなもの)が。「野菜の形、色をとらえてある」。「難波の森玄郷のために描かれ、その子孫が大典に跋文を依頼した」ということが書かれている 
若冲のサインと落款2点が冬瓜の中に 撮影:沢田眉香子

この新発見の絵巻《果蔬図巻(かそずかん)》は、2024年10月から始まる、若冲をテーマにした企画展「開館5周年記念特別展 :京都の嵐山に舞い降りた奇跡〜伊藤若冲の激レアな巻物が世界初公開されるってマジ?」で展示される予定だ。

展覧時には、絵巻の全長すべてが公開される予定 
伊藤若冲 果蔬図巻(かそずかん、部分) 1791 福田美術館蔵
伊藤若冲 果蔬図巻(かそずかん、部分) 1791 福田美術館蔵
伊藤若冲 果蔬図巻(かそずかん、部分) 1791 福田美術館蔵

美術館公式サイト:https://fukuda-art-museum.jp

沢田眉香子

沢田眉香子

さわだ・みかこ 京都拠点の著述業・編集者。アート・工芸から生活文化までノンジャンル。近著にバイリンガルの『WASHOKU 世界に教えたい日本のごはん』(淡交社)。