公開日:2022年8月10日

「NFTism」は人生そのもの。アーティストでNFT支持者ケニー・シャクターにインタビュー (聞き手:塩野入弥生)

アートロイヤーの塩野入弥生が、アーティスト、キュレーター、作家、NFT支持者のケニー・シャクターと対談。進化し続けるアートの世界におけるNFTの重要性について、話を聞いた。(翻訳:ハイスありな)

ケニー・シャクター  Money Money Money 2021

アメリカ出身で現在ニューヨークを拠点とするアーティスト、ケニー・シャクター(1961〜)は、30年以上に渡り作品制作と並行して美術館やギャラリーで展覧会を企画し、大学で教鞭を執るなど、様々な活動を行ってきた。近年は独自の「NFTism」を提唱し、NFT支持者としてNFTアート/クリプトアートの世界では著名な存在となっている。NFTブームはアート界に何をもたらすのか、アートロイヤーの塩野入弥生が聞いた。【Tokyo Art Beat】


NFTアートの支持者が語る「NFTism」とは

──お忙しいところ、ありがとうございます。早速ですが、NFTを用いたご自身のアート活動を「NFTism」と称していますね。しかし、NFTismは様々なものの代名詞になっているような気がします。もちろん、ケニーさんのプロフィール画像(PFP)プロジェクト「CryptoMutts」(*)で使われるトークンを指していますが、同時に、ほかのフォーマットとは分裂した現代のデジタルコンセプチュアルアートの形式やコミュニティに対しての寛大な心の広さを表しているようにも見えます。ケニーさんにとってNFTismとはなんですか。

上記のすべてとそれ以上のものです。僕にとってのNFTismは、単純にコミュニティに関わる人たち、そして彼らのつながりから生まれるクリエイティブなものです。

話は少し遡りますが、僕がアートの世界に入った直後の1990年代、アメリカは深刻な不況に見舞われていて、生計を立てるのが難しい時代でした。しかし、同時に、僕のアートキャリアの中でもっとも大切で、重要な時期でもありました。ポップアップという言葉ができる前から、様々な場所で短期間の展覧会をやっていて、ヴィト・アコンチ、セシリー・ブラウン、ウェイド・ガイトン、アンドレア・ツィッテルなどのアーティストを紹介していました。アートのためのアートだったんです。これらの作品にマーケットがなかったし、いつかできるとは夢にも思わなかったです。

当時はまだアーティストがアート界に入り込める機会が少なかったので、僕はニューヨークのそうした穴を埋めるために自らの意思で展覧会をキュレーションしていました。

──このようなコミュニティにおいて、デジタルはどのように位置づけられるのでしょうか?

コンテンポラリーアートでは、アーティストが美術関係者に現物のスライドを送らなければならない時期がありました。ところが、ソーシャルメディアのおかげでこのような物理的なやりとりが不要になりました。アーティストは国境を越えてイメージを伝達できるようになり、彼らの拠点がアジアであれ、アフリカであれ、世界のどこであれ、新しいオーディエンスにアクセスできるようになりました。結果として多くのアーティストが発掘されましたが、やはり作品を売るために時代遅れの保守的なシステムに頼らざるを得なかったのです。

NFTはアーティストとオーディエンスとの間に直接的なコミュニケーションを確立し、その関係を継続させることを可能にしたことで、以前の方程式を変化させました。また、平均的なNFTは15ドルや25ドルで売られているため、これはお金稼ぎのためのシステムではないのです。テクノロジーはこれからも進化し続けるかもしれませんが、アーティストとオーディエンスとの直接的なコミュニケーションはなくならないと思います。

最初の質問に戻ると、NFTismは、数学者だろうが、プログラマーだろうが、映画制作者だろうが、このデジタル・コミュニティに集うすべてのクリエイターを象徴しています。人と人とのつながりを育む気風でもあり、90年代初頭以来、見たことのないほど、人々がお互いに助け合っています。

ケニー・シャクター 撮影:塩野入弥生

クリプトアートは伝統的なアートと拮抗し得るか

──クリプトアートのコミュニティは、伝統的なアートと並ぶ時代が来ると思いますか。

もちろん……その時代はすでに始まっているのです!たとえば、ビャルネ・メルゴール、トム・サックス、ロー・エスリッジといった著名なアーティストたちがNFTを探求し始めています。これらはまだ例外かもしれないけど、2つの世界のあいだでの有機的かつ段階的な異花受粉が行われている一例でもあります。

──伝統的なアートの世界ではNFTに対する抵抗感を感じることはありますか。

はい。これだけ抵抗があるのは、アートの世界の一部にゼロサム思考があるからだと思います。そして、ギャラリーがためらっている間にも、NFTの主要なディーラーとなったオークションハウスなどが進出し、利益を得ようとしたのです。

──クリプトアートやNFTアートのコミュニティでは、オークションハウスが新しいかたちのゲートキーパーになりつつあるのでしょうか。自身のプラットフォーム上でNFTをキュレーションするプラットフォームと、NFTを販売するクリスティーズなどオークションハウスとの違いはあると思いますか。

もちろん、それぞれ違うんです。ビジネスモデルも違いますし、それぞれが異なった顧客層を持っています。しかし、オークションに出品するにはマーケットが必要です。ニフティゲートウェイ(Nifty Gateway)のようなNFTプラットフォームに参加するためにもマーケットが必要なのです。 

しかし、NFTアートの場合は自己創造も大事だと思います。アーティスト個人の努力が重要です。これまでのアートマーケットの流れと違って、いまは自分自身を一から作り上げる機会も増えています。YouTube、Instagram、TikTok、Twitterなどのソーシャルメディアを通じて、クリエイターたちは自分のオーディエンスを形成し、アクセスするための手段を分散化させました。

だからこそ、ギャラリー、オークションハウス、アートアドバイザーなど、従来のアート界のステークホルダーは、視野を広げて、柔軟に対応しなくてはならないのです。

──伝統的なアートの世界では、NFTを美術史上重要なものと見なさない人が多いようですが、NFTのプロジェクトのなかで美術史的に重要だと思うものはありますか。

ベルリンの優秀なアーティスト、サラ・フレンド(Sarah Friend)のように、50ドル以下で素晴らしいNFT作品を作っている人たちはたくさん知っています。彼女は元々絵画を学び、その後、独学でコーディングを勉強しました。ユニバーサルインカムや賃金の平等化といった社会問題に焦点を当てた地域密着型のプロジェクトに取り組んでいるアーティストです。また、環境問題にも関心が高く、よりエネルギー効率の高いブロックチェーンでNFTを鋳造しています。

ケビン・アボッシュは、以前からクリプトに取り組んでいる人で、本当に頭が良く、彼の活動も気に入っています。そして、レア・マイヤーズ(Rhea Meyers)はメディアとしてのNFTを研究し、「スマートコントラクト」が実際にどれくらいスマートなのかを考察しています。マイヤーズのような人にとって、NFTの媒体自体がアートなのです。

問題は、近年のNFTの熱狂ブームとその後の破綻ではペンギンや猫などのデジタル画像を買うことに巨額の資本が費やされており、それ自体がアートの世界を単純化させているように感じさせるということです。僕はいつも「ビジネスから逃げるためにアートの世界に入った」と言ってるんですが、アートの世界は僕が逃げたビジネスよりも大きくなってしまったんです。

──では、このノイズの中から、どうやってインパクトのあるアートを見つけ出せばいいのでしょうか。

それはあらゆることと一緒で、努力をしなければならないのです。誰でも僕と同じように、見て、学んで、行動できるはずです。そして、自分の成功や失敗を共有して、人にインスピレーションを与え、サポートできれば、それは僕にとって最高にいいレガシーになると思います。

──NFTアーティストのサポーターとして、影響力のある存在になっていますね。ケニーさんにとって、NFTが物理的な表現を持つことは重要なのでしょうか。

100%、なぜなら、アートは直感的なものであり、デジタルアートでさえも物理的な要素を含んでいると思うからです。アートを見るという体験は代えがたいものです。そして、デジタルアートの場合、携帯の小さな画面で見るより、巨大なビデオモニターで見る方がはるかに迫力があって、いいのです。

ギャルリ・ナーゲル・ドラクスラー(Galerie Nagel Draxler、ケルン)でNFTと対峙できる「METADADA展を開催したり、そして、SBIアートオークションによる日本初のNFTオークション「NFT in the History of Contemporary Art: a Curated Sale by Hiroki Yamamoto」で、僕の映像NFT作品『Money Money Money』が落札されたことなどもそうですが、この新しいメディアで、NFTを伝統的なアートの世界のオーディエンスと共有できることは、非常に刺激的で、おもしろいことです。僕にとっては、これらのオーディエンスは相反するものではありません。

ケニー・シャクター  Money Money Money 2021

「CryptoMutts」プロジェクトとは

──「CryptoMutts」プロフィール写真プロジェクトについて詳しく聞かせてください。ランダムに生成され、それぞれ異なる特性を持った人間とヒューマノイドの画像が1万点があって、CryptoMuttを「養子」 に迎えれば、所有者はケニーさんが運営する「アートクラブ」にアクセスでき、積極的な参加者がいるDiscordチャンネルでダイレクトにコミュニケーションを取ることも可能になります。

CryptoMuttsは5個も売れるとは思っていなかったのですが、出品から90分以内に約9,000個が売れました。それはたまたまかもしれないし、僕がNFTブームの黎明期に関わったおかげかもしれません。2021年9月以降、800ETH相当以上の取引が行われてきました。CryptoMuttの一つひとつは高価なものではありませんが、セカンダリーマーケットの取引から少額のロイヤリティを受け取っています。

ケニー・シャクターのDiscordチャンネル

しかし、90年代後半にデヴィッド・ボウイが言ったように、インターネットはアーティストとオーディエンスの関係を変えてしまったというか、まるで混合させてしまったかのようです。Discordチャンネルでは、80ドルを払ったCryptoMuttの所有者に叩かれることがあるのですが、彼らは僕の魂を所有していると思い込んでいるみたいですよ。伝統的なアートの世界からも批判を受けることがあるので、両者にはそれほど違いはないと思います。世間の注目を浴びるということは、そういうものなのです。

──ネガティブなフィードバックを受けたとき、どのようにそれを乗り越えて、前に進んでいますか。

正直言って、批判には耳を傾けるようにしているので、傷つくこともありますね。

CryptoMuttsの今後の展開については僕もわからないですね。そもそも、6ヶ月後の自分が何をやっているのかさえわからないです。ただし、CryptoMuttsプロジェクトを作り上げたのは事実ですし、僕にとってこのプロジェクトは子供のようで、生活の一部でもあります。だから、僕が何しようが、CryptoMuttsもついてくるはずです。

このプロジェクトを作ったからには、コミュニティのためにもっと役に立つものを作ろうと挑戦を続けています。無償でNFTをエアドロップしたり、NFTismのトークンを作ったり、300枚以上のTシャツを世界中のCryptoMuttコミュニティのメンバーに送るなどしました。デジタルなNFTでつながったコミュニティが世界中にあることを実感できるのは、本当に素晴らしいことだと思います。

NFTの技術は、コンセプチュアルな活動を行うアーティストを直接支援することを可能にし、より簡単で具体的な手段をオーディエンスに提供したのです。だから、CryptoMuttの所有者は僕のキャリアに出資しているようなもので、アーティストとしての僕の未来を握っているのです。

──「CryptoMutts」は、イーサリアム(ETH)・ブロックチェーン上でランダムに生成された1万点のNFTコレクションです。CryptoMuttを「養子」に迎えることで、ケニー・シャクターが運営する初の「NFTアートクラブ」へのアクスセスを得ることができ、CryptoMuttを鋳造するごとに100の$NFTismトークンを受け取ります。$NFTismトークンはユニスワップ(Uniswap)でイーサリアムと交換可能です。

塩野入弥生

塩野入弥生

しおのいり・やよい  アートロイヤーとして、作家のクリス・バーデンの遺作管理と、作家のナンシー・ルービンズの活動の促進を行う。創造産業分野で活躍するクライアントを法律面で支援する東京のシティライツ法律事務所の米国アライアンスパートナー、そして、Tokyo Art Beatの出資者のアート×テクノロジーのスタートバーン株式会社の社外取締役も務める。過去には、Artsyのゼネラルカウンセル兼アジア戦略責任者やグッゲンハイム美術館組織内弁護士を務めた。ハーバード大学卒業。コーネルロースクール修了。コロンビア大学日本現代美術史修士課程修了。Instagram: @yayoi_shionoiri