
出光真子 Still Life 1993-2000 東京都写真美術館蔵
日本における実験映画およびヴィデオ・アートの先駆的な作家である、出光真子の大規模回顧展「出光真子 おんなのさくひん──ある映像作家の自伝」が東京・恵比寿の東京都写真美術館で開幕した。会期は9月21日まで。
出光真子は1940年生まれ。父は出光興産創業者の出光佐三。お茶の水女子大学附属小・中・高から早稲田大学第一文学部に進学し、卒業後ニューヨークへ留学した。1965年に抽象画家サム・フランシスと結婚してアメリカへ移住し、当時暮らしていたサンタモニカで映像制作を開始。以後30年以上にわたり、フィルム、ヴィデオ、インスタレーションと形式を横断しながら約50点の作品を制作してきた。
ふたりの子供を育てながら制作を続けた自身の経験をもとに、母と子、夫婦関係、女性の社会的役割といったテーマを独自の視点で描き出してきたその実践は、近年あらためて注目を集めており、2025年に東京国立近代美術館で行われたコレクション展「フェミニズムと映像表現」や東京都現代美術館「日常のコレオ」での展示も記憶に新しい。

東京都写真美術館は、2016、17年度に出光のフィルム・ヴィデオ全作品と主要なインスタレーション作品、計43点を収蔵した。本展では、収蔵後初公開となるインスタレーション作品《Still Life》を含む28点の映像作品と資料1点を通じて、出光の創作活動の全体像に迫る。さらに展覧会と1階ホールで会期中に開催される上映プログラムを組み合わせることで、同館収蔵の全作品を含む45作品を網羅的に紹介する。担当学芸員は同館の田坂博子と遠藤みゆき。
出光がアメリカへ移った1960年代後半は、女性解放運動が活発化していた時期。第2波フェミニズムのスローガンとなった「個人的なことは政治的なこと」が掲げられた時代だ。作家が運動に直接的に参加することはなかったが、自身の個人的な経験を起点に、家父長制の根強い日本社会や家庭の構造を作品を通して鋭く見つめた。
田坂学芸員は次のように話す。「出光さんはいまあらためて国際的にも注目を集めている作家のひとりだと思う。背景としてはジェンダーや女性の自己表現をめぐる社会的な関心の高まりがあるかもしれないが、出光さん自身は時代に応答してきたというわけではなく、自分の内面にある問いにただ誠実に取り組んできた。それぞれの作品を作るなかでそれを証明してきているような部分があると考えている。本展が出光さんの一貫性や問いを一緒に考えるきっかけになれば」
